【2/4】人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

引用元:人を自殺させるだけの簡単なお仕事です

66名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:14:32.34 ID:dXNG+K4x0.net

二人で並んで体の汗を濡れタオルで拭きとりながら
さてどこから説明したものか、と考えました

乾いた風がひんやりと心地よいです
標的は靴下まで脱いで足を洗っています

普通なら標的の方から何か聞いてきそうな物ですが
この女の子はさっきから、何一つ訊ねてこないのです

参ったな、と考えているその時でした

「綺麗になったことだし、どうぞ」

突然、標的はそう言うと、”気をつけ”の姿勢をとり、
僕の顔をまっすぐ見据えました




69名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:27:38.04 ID:dXNG+K4x0.net

標的は両腕を広げて掌をこちらに向け、言いました
「落とすなり、吊るすなり、好きにしてください」

前髪から水滴がぽたぽた落ちて
濡れた手足がきらきら光っています

やっぱり気に入らないな、と僕は思います
「そのうち殺すさ、とてもひどいやり方で」

「とてもひどいやり方ですか」
標的は間抜け面で繰り返します

「ああ。だから、まず車に乗れ」

標的は靴を履き、車の方へ歩いて行きます




70名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:39:27.04 ID:dXNG+K4x0.net

しっかりした朝食をとらせると
僕は標的を高校まで送り届けました

少しでも教室への滞在時間を減らしたくて
遅刻寸前に学校に来る主義の標的としては
むしろいつもより早く登校したことになります

車を降りると、標的はこちらを振り返り、
小さく頭を下げ、歩いて行きました
呑気なものです




71名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:48:50.28 ID:dXNG+K4x0.net

こちらも一限の講義があるのですが
その前にひとつ、やっておくことがあります

目を閉じて、標的の顔を思い浮かべます
彼女はちょうど教室に入るところでした

標的は、なるべく目立たぬように、
静かにドアを開けて中に入ります

それでもドアの近くにいた連中は、
誰が来たのかを確認しようと目を向けます

そのとき、標的の表情がぱっと明るくなり、
口からは「おはよう」と朝の挨拶が出てきます
もちろん僕の仕業です




72名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:58:30.92 ID:dXNG+K4x0.net

周りの連中は誰も挨拶には応えません
それは勿論、誰も、彼女が挨拶してくるなどとは
想像さえしていないからです
聞き間違えだろう、くらいにしか思っていません

標的の顔が真っ赤に染まります
恥ずかしくて仕方がないのでしょう
死ぬのは平気でも、挨拶を無視されるのは嫌なのです




73名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 00:58:55.84 ID:uhmYAR3P0.net

大学生なのかよwww
俺にもその仕事できるかな?




74名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:01:25.28 ID:cC0GceiJ0.net

これは期待




75名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:13:08.03 ID:dXNG+K4x0.net

ですがその後も、標的が廊下で
クラスメイトと擦れ違うたびに
僕は標的に感じ良く頭を下げさせました

標的はノートに「かんべんしてください」と
書いて僕に見せようとしていましたが
僕は何の反応もしてやりませんでした




76名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:20:59.42 ID:dXNG+K4x0.net

昼休みになると、標的はカロリーメイトを口に放り込み
イヤホンを耳にさして勉強を始めようとしたので
僕は体をのっとってイヤホンを引っこ抜きました

イヤホンなんてつけていたら、初めから周りとの
コミュニケーションを諦めている人みたいに見えるからです

標的はノートに「よけいなお世話です」と書きました

僕は標的の手を借りて、その文に取り消し線を引きます
そしてのその下に、「いやがらせ」と書いておきました

それを見た標的は、「ひどい」とだけ書き込みます




77名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:33:45.95 ID:dXNG+K4x0.net

授業がすべて終わると、標的は誰よりも早く教室を出ます
いつもはさり気なく一番目に帰宅する標的ですが、
この日はなりふり構わず急いで出て行きます

これ以上僕に何かされたら敵わないと思ったのでしょう
しかし、帰宅後、彼女に更なる悲劇が訪れます
もちろん実行犯は僕なのですが

標的の体をのっとった僕は、再び身辺整理を始めました




78名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:41:56.58 ID:dXNG+K4x0.net

一番下の引き出しにしまわれた、
カティサーク、ジョニーウォーカー赤、
エンシェントクランといったウィスキー

どこで手に入れたかは知りませんが
おそらく彼女の一番のお友達であるそれらを
僕はすべて洗面台に開けて流してしまいます

標的の口が「やめっ、もったいない」と動こうとします
今までで一番必死な反応だったかもしれません
ですが、知ったことではありません




79名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 01:51:48.67 ID:dXNG+K4x0.net

さて、彼女のスケジュールによれば、
ベッドに横になって音楽を聴きはじめる頃合でしたが、
僕は酒瓶をビニール袋に入れて引き出しに戻すと、
そのまま彼女を家の外に出しました

ただし、今回は八時間ぶっ通しで歩かせたりはしません
十分ほど歩いたところで、目的地の公園に着きます

二台あるブランコの片方に、彼女を座らせます
当然、もう一台のブランコには、僕が座っていました




80名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 02:01:24.80 ID:dXNG+K4x0.net

辺りは薄暗く、日暮が近くで鳴いています
僕は両手に抱えていた植木鉢を標的に渡します
標的は「なんですかこれ」と聞いてきます

「アグラオネマニティドゥムカーティシー」と僕は答えます

「いえ、品種のことじゃなくて。なんですかこれ」

「部屋が殺風景すぎるからな。観葉植物だ」

「……これも、いやがらせなんですか?」

「プレゼントに見えるか?」




81名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 02:14:45.36 ID:dXNG+K4x0.net

標的は植木鉢を掲げて、眺めます
「見えなくもないですね、綺麗ですし」

「そういうところが、気にくわないんだ」
ブランコから下りて、僕は標的の前に立ちます

標的は植木鉢を膝の上に抱えたまま
少し緊張した表情で僕の顔を見ます

しばらくその状態が続くと
ふいに標的は植木鉢を足元にやさしく置いて
「殺しますか?」と言ってブランコをこぎはじめました




82名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 02:27:02.63 ID:dXNG+K4x0.net

僕はあらためて聞いてみます
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「んー、殺した方がいいですよ」と標的は答えます
「初めてでもないんでしょう? 私で何人目ですか?」

僕はしばらくこう考えてから、こう言います
「どこまで知ってるんだ?」

標的はブランコをとめ、植木鉢に目をやり、
僕と目は合わせずに、こう言いました

「知ってるも何も、今あなたがしてるのは、
 むかし私がしてたこと、そのままなんですよ」




84名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 04:37:49.23 ID:y8jeKPAfO.net

wktk




86名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 07:37:45.67 ID:+LAtZHRNO.net

アグラオネマニティドゥムカーティシー
よし覚えた




87名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 08:58:45.64 ID:UAFggopkO.net

アグラオネマニt・・・覚えられない



ほしゅ




90名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 09:58:09.71 ID:dXNG+K4x0.net

「八人、自殺させました。標的は十九歳から七十二歳まで。
 男が六人、女が二人。四人は飛び降りで処理しました。
 ロープが三人で、あとの一人はカミソリです」

「あなたもそうだと思うんですが、ある日突然、
 人の体をのっとれるようになって、同時に、
 自分が何をしなければならないのかが分かりました」

「最初の一人の他は、上手いことやれたと思います。
 この仕事の良いところは、一人自殺させるたびに、
 自分も死んで、生まれ変わったような気分になれることでした」




91名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 10:12:55.58 ID:dXNG+K4x0.net

「あなたは、どうして自分がその能力を
 持つようになったのか、分かりますか?」

僕は首をふりました

「これはあくまで私の予想に過ぎませんが、
 あなたにバトンが受け継がれたのは、
 おそらく、私が人を殺すのをやめたせいです。

 九人目で、私はありがちなミスを犯しました。
 同情してしまったんです、標的に対して」




92名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 10:27:32.93 ID:dXNG+K4x0.net

「とたんに私の能力は失われました。
 その後で、私が逃した標的は、自殺しました
 たぶん、私の代わりに、後任が現れたんでしょうね。
 私はもう使えないって判断されたんでしょう」

標的が顔を上げて聞いてきます
「あなたが初めて殺したのって、二十代の女性でしょう?
 茶髪でセミロング、背は高め、指が綺麗な女の人」

僕が黙っているのを、標的は肯定と受け取ったようでした




93名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 10:43:22.27 ID:dXNG+K4x0.net

「あの人のこと、私、殺せなかったんですよ。
 だって、あの人、笑っちゃいますよね、ああ見えて、
 写真とお喋りするのが一番の娯楽なんですよ。

 理由はわからないけど、そういうのって、
 すごくげんなりさせられるじゃないですか」

「あの人を見逃してからしばらくして、
 私は人の体をのっとる力を失いました。
 更にしばらくして、今度は、体をのっとられたんです」

標的は僕を指差して言います、「あなたに」




97名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 12:27:44.04 ID:3lKQNl8q0.net

小説苦手やけど読んでしまう




100名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 13:34:01.76 ID:nqS2gb950.net

これひょっとしてすごくね




101名も無き被検体774号+2012/07/24(火) 13:51:18.34 ID:KJ6aYslS0.net

すげぇなこれ




140名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 22:32:16.29 ID:5B7gcMQa0.net

「いわゆる”用済み”ってやつなんでしょうね。
 前任者は後任者に消されるシステムなんでしょう」

「私が自殺させた人の中にも、ひょっとすると、
 以前は私と同じようなことをしていた人がいたのかもしれません」

「だから」、標的は笑って言います
「殺しちゃった方が、話は早いでしょう?
 そうしないと、次はあなたも狙われますしね」




146名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 22:54:35.86 ID:5B7gcMQa0.net

答える代わりに、僕はまたこの質問を口にしました
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「そうするのが、一番なんだと思います」

「”お前”が、殺されたがってるのか?」

「私、ですか。……そうですね、死ぬのは怖いです、
 でもそれ以上に、死んだ方が楽だろうなあと思ってます。
 うん、そうですね。たぶん私は殺されたいんです」




148名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 23:09:57.92 ID:5B7gcMQa0.net

「なら話は早い」と僕は言います、
「楽になる手伝いなんてごめんだね。
 俺は、お前には、『今死ぬわけにはいかない』
 って悔しがりながら死んで欲しいんだ」

標的は無表情に僕を見つめます
「その前にあなたが死ぬと思いますよ」

「いいさ。死んだ方が楽だろうと思うしな」

「……まねしないでください」

「アグラオネマは直射日光に弱い」

「はい?」首を傾げつつ、標的は植木鉢に目をやります




150名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 23:19:11.23 ID:5B7gcMQa0.net

「しかし、明るい場所で育てる必要はある。
 変な表現だが、『明るい日陰』におくといい」

「……あの、私、もうすぐ死ぬんですよ?
 あなたが殺さなくても、別の誰かが殺しますし」

「高温多湿を好むから、暖かい場所に置いて、
 一日一回は霧吹きで葉に水をかけてやれ。
 水も、やりすぎない程度にたっぷりな」

「育てませんってば」

「ついでに言うと、高価な植物だ。
 あの手のウイスキーが十本くらい買える」

「ええっ」標的の体がこわばります
頭の中は酒瓶でいっぱいなのでしょう




152名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 23:29:49.73 ID:5B7gcMQa0.net

「枯らしてしまったときは、お前の体を乗っ取って、
 クラスメイトに『友達になってください』って言って回る」

「そういうのはほんとにやめてください。
 アグラ……ムドゥ……なんでしたっけ?」

「カーティシーでいい。覚えろ」

「かーてぃしー」

「そうだ」

「あおぞらです」

「……ん?」僕は星空を見上げます

「私の名前です。覚えてください」

「ああ、名前か。知ってるよ」

「くもりぞらではないです」

「青空だろ。確かに似合わない名前だよ」




153名も無き被検体774号+2012/07/25(水) 23:46:05.16 ID:5B7gcMQa0.net

「それで、あなたの名前は?」

「くもりぞらだ」と僕は言います

「まねしないでくださいってば」

「本当だよ。すばらしい偶然だな」

「ふうん。似合う名前で良かったですね」
青空は拗ねたような顔をして言います
「……それで、私はこれ、カーティシーを、
 このまま持って帰るんですか?」

「そりゃあそうだ」

「恥ずかしいなあ」

「恥ずかしい思いは、これから沢山してもらう」

「今日のだけで死にそうなんですけどね」

「人はそう簡単には死なない」

「あなたが言うと説得力がありますね」




168名も無き被検体774号+2012/07/26(木) 13:42:55.56 ID:eC7dYolM0.net

続きが気になってしゃーない




185名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 00:07:31.37 ID:H0TWczxL0.net

「さて、そろそろ解散といくか」
青空の顔を見つめながら、僕は言います
「なんだかお前、いきいきしてきたからな」

青空は痛いところをつかれて
慌てて緩んでいた表情を引き締め
「別に、そんな」と言いながら顔を赤くします

”実は人と話すのが好き”などと思われるのは
青空のような者にとっては最も苦痛なことなのです




186名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 00:17:31.34 ID:GcE77dUY0.net

待ってたよ!




189名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 00:29:14.69 ID:H0TWczxL0.net

「さようなら、くもりぞらさん」
青空は公園を出て行きました
逃げるように早足で出て行ったので
公園の前にいた人に気づきませんでした

青空のクラスメイトの男は
公園から出てきた青空を見たあと
その手に抱えられた植木鉢を見て
見てはいけないものを見たように目を逸らしました

すかさず僕は青空の体をのっとります
感じの良い笑顔で「こんばんは」と言います
相手の男は、とても困った顔をしましたが
「ちわっす」と頭を軽く下げました




190名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 00:43:27.62 ID:H0TWczxL0.net

クラスメイトの男が去って行くと
青空は僕のところまで戻ってきて言います
「いったい、なにがしたいんですか?」
よほど恥ずかしかったのか、涙目になっています

「お前がしたくないことをお前にをさせたい。
 お前がしたいことはお前にさせたくない」

「変な人と思われたじゃないですか、
 公園から植物盗んだ人みたいじゃないですか」

「いいじゃないか、どうせ死ぬんだろ?」

「確かにそうですけど、それでも、死ぬ直前まで、
 死んだ後の自分を想像する自分はいるんですよ」

「いいことを言う、その通りだ。だからやりがいがある」

呆れたような顔で青空が僕に言います
「女子高生に嫌がらせして楽しいですか?」

「楽しいぜ。今度やってみな




204名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:05:48.39 ID:H0TWczxL0.net

それからも毎日、僕は青空が知人と出会うたびに
礼儀正しく挨拶させ、時には会話までさせました

周りが少しずつ、青空が口を開いても
違和感を覚えなくなってきたところで、
惜しくも課外授業が終わってしまいます

最期の授業が終わった後、
青空はまっさきに教室を出ると思いきや、
ノートの隅に、おそらく僕に向けた
メッセージを書きはじめました




205名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:14:34.69 ID:H0TWczxL0.net

青空は、以前僕がそうしていたように、
ブランコに腰掛けて待っていました

「こんばんは、くもりぞらさん」

真夏日の昼間で、ブランコの椅子は
ひどく熱を持っていました

カーティシーの育て方について、
今のやり方で合っているのか確認したい、
というのが青空の要望でした

話を聞く限り、青空の育て方に
特に間違った点はなさそうでした




207名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:19:49.56 ID:H0TWczxL0.net

「こんばんは」じゃなくて「こんにちは」だね
俺あたまおかしい




206名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:14:39.73 ID:DXxcLPkD0.net

わくわく




208名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:21:41.16 ID:H0TWczxL0.net

「糞暑いな」と僕は汗を拭います

「落としてあげましょうか、川とかに。涼しげですし」

僕は無視してシーブリーズを体に塗ります

「いつか落としてやりますからね」
青空は僕に小石を定期的に投げてきます

僕は青空の体をのっとり、水飲み場で
おでこで水を飲ませてやります

制服までびしょ濡れになった青空は、
「涼しげでいいです」とブランコに座って言います




209名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:34:42.99 ID:H0TWczxL0.net

「お前はもう夏休みか。残念だな」と僕は言います
「もっと色々やらせようと思ってたんだが」

「夏休み大好きです」と青空はばんざいします
「人と会わなくて済むし、家にいられるし。
 お酒は誰かが捨てたから飲めませんが」

「人と会うのも、外に出るのも嫌なのか」
僕がそう聞くと、青空は「しまった」という顔をして、
「ええと……どちらかと言えば」と濁します

青空の体をのっとり、僕はポケットをまさぐります

ところが目当てのものは見つかりません
しかたなく、操作をいったん解除します




210名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:43:03.33 ID:H0TWczxL0.net

「お前」僕は聞きます、「携帯はどうした?」

「携帯? 持ってませんよ、そんなもの」

「携帯電話を持ってない? 今時の女子高生が?」

「必要ないことくらい見ればわかるでしょう。
 いままで気付かなかったんですか?」
前髪をしぼりながら青空は言います

確かに、青空が携帯電話を持っても、
目覚し時計と化すのが目に見えています




211名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 13:49:30.24 ID:H0TWczxL0.net

「なにをするつもりだったんですか?」

「知人に連絡して、遊びに誘ったりするつもりだった」

「断られますよ、そんなの」

「そうなれば尚良かった。お前傷つくだろうし」

「……そうですね。効果覿面でしょう」

「お前が人に会いたくなくて外に出たくないなら、
 俺はお前を人に会わせて外に出そうと思ったんだ」

「間に合ってます。もう外に出てますし、
 現にこうしてくもりぞらさんと会ってるんです」

「じゃあそれを継続しよう」と僕は提案します
提案と言うか、もう決定なのですが




217名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 18:51:20.89 ID:H0TWczxL0.net

青空はお酒が飲みたいそうなので
僕は青空を喫茶店に連れて行きました
エスプレッソをふたつ注文します

「私コーヒー苦手なんですよ。にがいから」

「知ってる。ウィスキーは飲めるのに、変な話だ」

「コーヒー、毒みたいな味するじゃないですか」

「毒を飲んだことがあるような口ぶりだな」

「ええ、他人の体を使って、ですが」

僕が何も言わずにいると、青空は
「冗談でしたー」と言って微笑みます
冗談にしても分かりにくいし、何より面白くありません




218名も無き被検体774号+2012/07/27(金) 19:01:00.18 ID:H0TWczxL0.net

僕が机の上に広げた参考書をのぞきこみ、
青空は不思議そうな顔をします

「勉強するんですか?」

「ああ。試験が近いんだ」

「そっか……そうなのか。私も勉強しよう」
青空は鞄から速読英単語を取りだします
それを見た僕は、なんだか懐かしい気分になります

運ばれてきたコーヒーに、砂糖をたっぷり入れ、
おそるおそる口をつけた青空は、「にがいー」と顔を歪めます




247名も無き被検体774号+2012/07/28(土) 23:58:31.32 ID:8I4+VxX50.net

「ちなみに私は、標的を見逃してから、
 一週間くらいで能力を失いましたよ」

勉強を始めて二時間ほど経ったところで
青空が伸びをしながらそう言いました

「関係ないな。別に見逃したつもりはないから」

「傍から見ても、そう見えますかね?」

「ああ。どう見ても標的を狙う殺し屋だ」

「ふうん」青空はつまらなそうに言います
「それはそうと、勉強、はかどりますね。
 なるほど、ここは勉強するのに良さそうです」

「なんてこった」と僕は言います、「勉強はやめにしよう」




249名も無き被検体774号+2012/07/29(日) 00:06:13.23 ID:5WSHyzFN0.net

映画館に入った僕たちは、階段を下りていきます

「たしかに勉強には向かない場所ですね」
青空はきょろきょろしながらそう言います

連日の試験勉強で睡眠不足だった僕は
映画が始まって数分で眠ってしまいます

目を覚ますとほとんど映画は終わっています
登場人物たちは何かに感動して泣いている様子です
勝手に盛り上がってるんじゃねえよ、と僕は思います

「どんな映画だった?」と僕が聞くと
「殺人犯が酷い目にあう映画」と青空は答えます
映画の製作者もがっかりしていることでしょう




251名も無き被検体774号+2012/07/29(日) 00:18:14.57 ID:5WSHyzFN0.net

「映画もドラマもそうですけど、人を殺した罪人って、
 大抵、なにがあろうと、最終的には死にますよね」

「『人を殺すような奴は死んでしまえ』ってことだろう」
僕はくしゃみをしてから言います
「そういった意味での公正さを、人は求めてる」

「たとえ改心したとしても?」

「やっぱり、一度でも人を殺したような奴は、
 たとえその後で聖人みたいになったところで、
 どこか安心できないところがあるんだろう」

「私たちは死んだ方がいいってことですね?」

「つまりはそういうことなんだろうな」




252名も無き被検体774号+2012/07/29(日) 00:34:06.70 ID:5WSHyzFN0.net

「なんだかそういうのはわくわくしますね」
前を歩く青空は、映画館出た後、振り返ってそう言います
「ここに生きているべきでない若者がふたり」

「なにがどう、わくわくするんだ?」

「あおぞらとくもりぞらですしね」
そう言って青空は僕の顔をのぞき込みます
何か言いたげな笑みを浮かべています




304名も無き被検体774号+2012/07/30(月) 11:30:41.73 ID:Vi6e/PR90.net

あおぞらがめっちゃかわいいんだけど
どうしてくれるんだよ




312名も無き被検体774号+2012/07/30(月) 19:11:17.00 ID:e6Xcvivh0.net

僕はなにか意地悪なことを言ってやろうとして
そのとき、不意に、「のぞかれた感じ」がしました

のぞかれた感じ。

「青空」僕は早口で聞きます
「一度、俺に遺書を直させようとして、
 ものすごい力で抵抗したことがあったよな。
 どうすればあれほどの力で抵抗できる?」

青空は「それはですね」と言いかけた後、すぐに勘付き、
「もしかして、のっとられてます?」と聞いてきます




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