引用元:人を自殺させるだけの簡単なお仕事です
1:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:29:03.95 ID:4S5e64sI0.net
なぜ他人の部屋をわざわざ掃除するのかと言うと
自殺には身辺整理がつきものだからです
きちんと掃除して、遺書を残して死ねば
その人の自殺を疑う人は、まずいません
とにかく綺麗にすること、それが大事なのです
手順は以下の通り定められています
①その人の体をのっとる
②辛そうに振る舞う
③身の回りを綺麗にする(これが一番大変)
④遺書を書く
⑤死ぬ
2:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:31:11.64 ID:qBMIlllg0.net
4:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:33:23.11 ID:4S5e64sI0.net
この女の子が七人目となる予定でした
3:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:31:34.87 ID:4S5e64sI0.net
神経質そうな目をした女の子でした
結果的には、これが僕の最後の仕事となりました
それまで僕が自殺させてきたのは
いかにも悪いことをしていそうな人たちで
こんなに若く、無害そうな標的は初めてでした
華奢で色白で、視線は常に下を向いていて、
笑い方がとっても控えめな女の子でした
5:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:34:14.68 ID:jwqGr8xe0.net
スタンド使いか? 魔法使いか?
その両方か?
8:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:35:58.42 ID:4S5e64sI0.net
職業特権です
9:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:38:14.18 ID:4S5e64sI0.net
悪い人間であることに間違いはありません
人の二、三人、平気で殺しているのでしょう
僕は目を閉じて、遠く離れた場所にいる
標的の顔を思い浮かべ、体をのっとりました
八月の、よく晴れた日のことです
最後の仕事が始まりました
10:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:43:16.07 ID:4S5e64sI0.net
場所は高校の教室で、授業中のようです
誰しも黒板とノートを交互に見て
忙しそうに板書を取っています
その中で、標的の女の子だけは、
のんびり外を眺めていたのでした
外は、特に面白いものがあるわけでもありません
バス停、ローソン、薬王堂、ジョイス、
やけに目立つボンカレーの看板、
いかにも田舎っぽい風景が広がっています
489:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:49:10.69 ID:Axa50L7/0.net
それと>>421の人すごいです、確かにそこがモデルです
11:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:47:23.12 ID:4S5e64sI0.net
ペンが妙に大きく感じるのは
この子の手がそれほど小さいということなのでしょう
教師の板書を丁寧に写してみます
すらすら動いて、調子はよさそうです
標的が抵抗してくる様子もありません
ふと教師の顔を見ると、こちらを見て
驚いたような顔をしていました
その意味はもう少し後になってわかります
12:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:50:59.04 ID:4S5e64sI0.net
僕はノートに「はじめまして」と書きました
そこで一旦、操作を解きます
標的は自分の手を開いたり閉じたりして
自由になれたことを確認していました
自分が操作されている自覚はあるようです
人によってはそれさえも気づかないのですが
標的は、自分の書いた「はじめまして」を
興味深そうにじっと見つめていました
それ以上の反応はありませんでした
13:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:55:26.54 ID:4S5e64sI0.net
再び標的の体を乗っ取ります
ここからが本番です
まずは標的の知人に対して、
標的が辛そうにしている姿を見せる必要があります
ためいきを増やしたり、口数を減らしたり、
いつもと違うことを言わせたり
そうすることで、「自殺の前兆はあった」と
周りが思い込み、自殺にリアリティが出るのです
15:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:58:04.71 ID:4S5e64sI0.net
しかし、話しかけてくる人どころか、
こちらに視線を向ける者さえいません
皆、それぞれに固まって、昼食をとりはじめます
僕は誰かが声をかけてくれるのを待っていました
16:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:03:57.55 ID:4S5e64sI0.net
標的は取り残されていました
僕はそこでようやく気付きます、
この教室で、この子(標的)が孤立しているのは
とっても自然な状態なのだということに
どうやら標的は、いわゆる「ひとりぼっち」のようでした
18:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:09:07.84 ID:4S5e64sI0.net
良く考えてみると、好都合なことでした
周りと接点のない人物というのは
いつ死んでも説得力があるからです
インタビューされた同級生に
「無口な人だった」の一言で片づけられるような
「その他」のカテゴリーに属する人種
19:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:13:39.53 ID:4S5e64sI0.net
なにせ、することがありません
標的は、理想的な「自殺しそうな人」を、
黙っていても演じてくれるようでした
僕は標的の操作を一時的に解除しました
20:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:19:20.98 ID:4S5e64sI0.net
顔さえ知っていれば、どこからでも操れるのです
目覚ましを合わせ、僕は昼寝を始めました
人を操るには体力がいります
次の仕事は、一番大変な「身辺整理」です
それまでに体調を万全にしておく必要がありました
21:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:25:06.51 ID:4S5e64sI0.net
ちょうど最後の授業が終わり、標的が、
誰よりも早く教室を出るところでした
部活には入っていないようです
ウォークマンのイヤホンを耳に差し込むと
標的の女の子はまっすぐ家に帰しました
彼女が帰宅し、自室に入ったところで
僕は再び体をのっとりました
標的の目を通して部屋を見渡します
「なんだこれは?」というのが
僕が最初に抱いた感想です
22:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:31:22.68 ID:4S5e64sI0.net
だって、身辺整理しようにも、
最低限の家具と教科書類以外
その部屋にはなんにもないのです
雑誌も、本も、テレビも、パソコンも、
クッションも、ぬいぐるみも、観葉植物も、
その部屋には、なーんにもないのです
23:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 14:14:57.95 ID:RLk+m6yt0.net
25:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 21:55:54.06 ID:4S5e64sI0.net
五時間くらいかかる身辺整理が、
この子だと、二分で済んでしまいました
唯一のゴミは、酒瓶でした
一番下の引き出しに、いくつか入っていました
僕は嬉々として瓶を袋に詰めましたが、
よくよく考えると、酒瓶に関しては、
置いてあった方が自殺者らしくなるので、
もとあった場所に戻しておきました
26:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:01:42.56 ID:4S5e64sI0.net
棚に無造作に置かれたCDがありました
それを聞くためのプレイヤーと、ヘッドホンも
アレサ・フランクリン、ジャニス・ジョプリン、
ビリー・ホリデイ、ベッシー・スミス
いかにも憂鬱な人間のチョイスでした
これに関しても、部屋に置いてあった方が
自殺者らしくなるので、放っておきました
27:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:04:02.98 ID:4S5e64sI0.net
お膳立てされていたといってもいいくらいです
今すぐ自殺させても、何の問題もないくらいでした
下手に僕が手を加えないほうがよさそうです
拍子抜けと言うか、騙されているような気さえしました
とは言え、楽であるに越したことはありません
28:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:15:55.96 ID:4S5e64sI0.net
世界史の教科書の端を破り取って、そこに
「むなしいので死にます」と書きました
多分、この女の子が遺書を書くとしたら、
ごくごくシンプルで、誰のせいにもせず、
それでいて案外切実なことを書くと思ったのです
29:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:43:01.15 ID:4S5e64sI0.net
家を出ようとしたときでした
標的の女の子が、初めて反抗しました
それも、信じられないほど強い力で、です
危うくコントロール権を奪回されるところでした
「待って」と標的は口を動かしました
無理に動かしたので、唇が切れ、
そこから血が流れだしました
驚く半面、僕は安心してもいました
このままだと、上手く行き過ぎて
逆に気味が悪いと思ったからです
30:名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:53:10.22 ID:4S5e64sI0.net
「遺書の文面を、少しだけ、弄らせてほしいんです」
32:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:17:38.19 ID:Ngo8f8dj0.net
「どういうことだ?」
傍から見ると、女の子の独り言です
少女は答えます
「『面倒なので死にます』に変えさせてくれませんか?」
「どうして?」
「こいつなんか、死んだ方が良かったんだ、
って思わせたいんです。できることなら」
33:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:23:19.80 ID:Ngo8f8dj0.net
それくらいはいいか、と思い、
文面を彼女の言う通りに直しました
標的の口が、「ありがとうございます」と
言おうとしたのが分かりました
結局、命乞いは一度もされずに終わりそうです
いったいこいつは何を考えているんだろう?
そこで僕はふと、あることに気付きます
37:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:43:15.07 ID:Ngo8f8dj0.net
自殺する気でいたのではないでしょうか
身辺整理も済んで、遺書の内容も決めて、
ただ、踏ん切りがつかずにいたのではないでしょうか
だとすると、僕のやっていることは
自分では決心をつけられずにいた自殺志願者を
望みどおりに殺してやる、というだけのことになります
38:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:54:46.70 ID:Ngo8f8dj0.net
死にたがっている人を殺すのはつまらないことです
殺す前に少し、この女の子をいじめてやろう
そう僕は思ったのでした
標的の体をのっとり、遺書とは別の書き置きを用意し、
それを居間のテーブルに置いて、僕は家を出ました
女の子には、これから一晩中歩いてもらうことにします
39:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 01:29:50.83 ID:1o5Tai2d0.net
46:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 12:35:35.16 ID:Ngo8f8dj0.net
階段や段差がそこら中にあり
自転車に乗る人はめったにいません
傾斜が20%をこえるところも多くあり
また、狭く曲がりくねった道が多いところです
その中を、転べば折れそうなほど華奢な足で、
どこまでもどこまでも歩いてもらいます
47:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 12:49:05.04 ID:Ngo8f8dj0.net
ひどく蒸し暑い夜でした
たちまち女の子は汗だくになります
靴のせいもあり、三時間ほど歩いた辺りからは、
脚全体がひどく痛むようになります
特に土踏まずとふくらはぎには激痛が走り
一歩一歩に苦痛を感じるようになってきます
顔を上げることもままならない状態です
48:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:19:22.22 ID:Ngo8f8dj0.net
自販機の前でコントロール権を渡してやります
小銭だけは持たせてきたのでした
ポイントは、彼女が自分の意志で
飲み物を買って飲むということです
それでも疲労はどんどん溜まり
痛みはどんどん増してゆき
お腹はどんどん空いていきます
49:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:27:07.54 ID:Ngo8f8dj0.net
標的はようやく目的地につきました
そこは、街を一望できる展望台です
螺旋階段をのぼりきったところで
僕は標的の女の子の操作を解除します
体力の限界を超えて動かされていた彼女は
途端にその場に崩れ落ちますが
彼女の体は、あらかじめ準備しておいた
椅子の上にちょうどおさまります
テーブルをはさんで、向かい側に僕が座っています
51:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:37:07.69 ID:Ngo8f8dj0.net
汁も残さず食べきった卑しい標的は、
自分が死にたがっていたことも忘れて
手摺に肘を乗せて、街を見下ろして
「きれいー」とはしゃいでします
物を考える力がなくなっているらしく
普段のように表情に抑制がありません
向きを変えようとして、足を絡ませて、
おもいっきり笑顔で転んでいます
52:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:48:27.84 ID:Ngo8f8dj0.net
標的は振り返って僕にたずねます
僕は説明しようとしますが、上手く言葉が出てきません
僕自身も物を考える力がなくなっていました
標的は八時間歩いて疲弊しきっているわけですが
こちらとしても、八時間標的を歩かせ続けるのは
自分で歩くのと同じか、それ以上に疲れるものなのです
53:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:58:30.99 ID:Ngo8f8dj0.net
今日のところは、飲み食いする喜びを
身体に叩き込むだけで勘弁してやろう、というわけです
僕が手招きすると、標的は黙ってついてきました
よく分かりませんが、従順で扱いやすい子です
どうせ操られるだろう、という諦めでしょうか
僕たちはふらつきながら螺旋階段を下りました
車のドアを開けて、運転席に乗り込むと
突然、猛烈な眠気に襲われました
55:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 14:11:23.44 ID:Ngo8f8dj0.net
助手席を開けて「乗れ」と言います
標的は「失礼します」と言って乗り込んできます
とても眠気に耐えきれそうもないので
十分ほど寝てから出発しようと決め
携帯の目覚ましをセットしている最中に
僕は眠りに落ちてしまいました
60:名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 18:17:56.90 ID:RzkYatCC0.net
64:名も無き被検体774号+:2012/07/24(火) 00:00:26.11 ID:Ngo8f8dj0.net
車内には容赦なく朝の光が差し込んでいます
左に目をやると、女の子が眠っていました
僕はドアを開けて外に出て
展望台の下にある水道で顔を洗いました
体もずいぶん汗でベタついていたので
車に戻ってタオルを取りに行くと
ちょうど標的が目を覚ましたところでした
眠そうな目でこちらを見ていました
読んでないけどこれ有名なSSだよね
なんで急にSSまとめ?
長くて読む気しないから三行で頼む
10回抜いたわ
文章下手やなぁー
またこんな古いのを
えーっと、本になったら教えてw
げんふうけいさんだっけ?