引用元:人を自殺させるだけの簡単なお仕事です
484:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:11:02.28 ID:Axa50L7/0.net
後ろに回って僕の首に右腕を巻き付けました
「前のやつの仕返しです」と青空は言います
以前触れたときの青空の首は冷たかったのですが
今日の青空の腕はあったかいです
あるいは僕の体が冷えているのかもしれません
「私、酔っ払いですから」、青空は僕の耳元で言います
「酔っ払いですから、これから変なこと言いますけど、
それは酔っ払いだからです。気にしないでください」
485:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:20:13.30 ID:Axa50L7/0.net
青空は腕の力を緩めると、そのまま
腕を下げて、僕の胸の辺りで交差させます
「どうして体のっとってくれないんですか?
どうしてひとりになりたがってる私を
くもりぞらさんは野放しにしておくんですか?」
青空の人差し指が僕の胸をとんとん叩きます
486:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:27:27.47 ID:Axa50L7/0.net
さみしいのが、私は好きなんですよ。
だからそれを阻止してくださいよ。
そういうのがくもりぞらさんの役目でしょう?
青空の人差し指の動きが止まります
「それに私は、死期が近いからって慌てずに、
いつも通り過ごして死にたいと思ってるんです。
だから、それさえも邪魔してくださいよ。
なんで言わないとわからないんですか?」
487:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:37:17.89 ID:Axa50L7/0.net
「あ、動いた」と青空は嬉しそうに言います
酔っ払いの言うことは、話半分に聞くのが正解です
ですが、青空は「気にしないで」いてほしいらしく
そうなると僕としては、気にせざるを得ないのです
そういうのが、僕の役目らしいですから
488:名も無き被検体774号+:2012/08/04(土) 22:44:24.19 ID:Axa50L7/0.net
まず、いま喋れないのだということを説明しようと思い、
自身の口を指差した後、両人差し指で「×」を作りました
すると、青空は何を勘違いしたのか
「だめって言われるとしたくなります」と言って
僕が指差したところに自分の唇を重ねてきました
その後、僕は苦労して携帯に文章を打ち込んで
さきほどあったことを説明したのですが
青空は「はい」「はい」と半目で頷き続けた挙句
人のベッドですうすう寝息を立てて寝てしまいました
503:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:02:03.22 ID:P3gLkbO30.net
寝ている青空の頭をくしゃくしゃやった後、ソファで眠りました
目を覚ますと、体が大分楽になっていました
僕は早口言葉をためします
「とてちてた、とてちて、とてちて、とてちてた 」
どうやらきちんと喋れるまで回復したようです
冷蔵庫からきんきんに冷えたビール缶を取り出し
へそをだして寝ている青空の頬に当てます
「つめたい」と言って青空は目を覚まします
504:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:11:17.27 ID:P3gLkbO30.net
「くもりぞらさんが喋ったー」と青空は喜びます
ビールを飲みながら「そろそろ帰れ」と言うと、
青空は眠たげな目で「いやです」と言い、
その後時計を見て「うわあ」と驚いていました
青空はベッドの上に三角座りして、
それからしばらく黙り込みました
現状について思いを巡らしているようでした
505:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:19:07.49 ID:P3gLkbO30.net
「あの……さっきはべたべたしてすみません」
「おお、ちゃんと覚えてるんだな」
「あ、そっか。忘れてることにしとけばよかった」
青空は正座したまま横に倒れます
「くもりぞらさん、私もお酒欲しいです」
「そろそろ帰れ。時間が時間だ」
「時間が時間で時間ですね」
青空はそう言って一人で笑います
506:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:30:13.53 ID:P3gLkbO30.net
「お前が嫌がらせされるのが好きとなると、
嫌がらせをしないことによる嫌がらせさえも
結果的に嫌がらせになってしまって、
最終的には喜ばせてしまうことになる」
「難しいことは考えずに、普通に
いやがらせしてくれればいいんです」
「なるほど」と僕は言い、ベッドの青空の
膝の下と首の後ろに手を差し入れ
ひょいと持ち上げて玄関まで運びました
その軽さに、僕はちょっと驚きます
507:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:35:22.74 ID:P3gLkbO30.net
「もういいですよ」と青空が言います
だからどうしたという感じです
僕はそのまま歩きつづけます
青空は僕を見上げて言います
「はいはい、そういう嫌がらせですか」
「屈辱的な仕打ちというやつだ」
「私の足の状態に気づいてたんですか?」
「さあな」
「くもりぞらさんは発声器官ですけど、
私は足の方をやられたんですよね」
508:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:41:13.22 ID:P3gLkbO30.net
「ええ。だって私、殺されるなら、
くもりぞらさんにって決めてますし」
「次に俺が何を言うか分かるだろう?」
「『じゃあ殺してやらない』、ですよね。
だったらせめて、私はくもりぞらさんより先に、
ここからいなくなりたいなあ」
「そうか。じゃあ俺はお前が死ぬまで死なない」
「じゃあ私はくもりぞらさんが死ぬまで死なない」
そういうやり取りを交わした後で、
僕はちょっと恥ずかしくなってきます
これじゃあまるで永遠を誓い合ってるみたいじゃないか
540:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 22:38:55.45 ID:49/DQkd80.net
・多分、>>508は、
「そうか。じゃあ俺は、俺より先にお前を死なせない」
「じゃあ私は、私より先にくもりぞらさんを死なせない」
と言わせたかったんじゃなかろうか、俺は。
・実を言うと、俺はショッカーの人ではない
509:名も無き被検体774号+:2012/08/05(日) 10:43:59.50 ID:P3gLkbO30.net
思い通りにいくものではありません
それが気休めに過ぎないことは
お互いにわかっているし、経験上、
死ぬということがそんなに優しくて
綺麗なものではないことを知っています
541:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 22:46:44.39 ID:49/DQkd80.net
人の体をのっとる力を失ったことに気付きました
ですが、結局青空は公園に来ました
「どうせ呼ばれるだろうと思ったから、
こっちから来てやったんです」
青空はしたり顔でそう言います
僕は「やるじゃないか」と言って
青空の頭を撫でてやりました
青空は頭を両手で押さえて
「子供扱いしないでください」とむくれます
545:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 22:54:30.79 ID:49/DQkd80.net
「だって、せっかく死ぬ覚悟が固まってても、
ふとした拍子に幸せな思いをしちゃったら、
苦労して固めた覚悟が崩れちゃいますからね。
ただでさえ、命が薄らいできたせいか、
異様に感動しやすくなっちゃってるんです。
気をつけないとすぐ幸せになっちゃいますよ。
感傷的になるなのは避けたいんです」
そこで僕は、センチメンタル・ジャーニーを提案します
どうにかして青空を感傷的にしてやろうというわけです
547:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:07:33.15 ID:49/DQkd80.net
小さな声で何かを歌っていました
こっちには聞こえていないと思っているのでしょう
「ままー じゃすきーらめーん」
それは僕もよく知っている曲でした
運転席でハンドルを握る僕は
一緒に唄おうとしたのですが
やっぱりやめておくことにしました
青空の声をきいていたいと思ったのです
趣味が酒と音楽だけというだけあって
さすがに歌い方というのを心得ていました
選曲も中々状況にマッチしています
548:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:14:31.53 ID:49/DQkd80.net
ベンチに並んで座ってそれらを食べます
ひどく古いコカコーラの赤いベンチで
塗装は半分以上剥げてしまっています
青空はサンダルを脱いで横向きに座り
素足を僕の膝の上に乗っけてきます
「ずっと思ってたんですけど、
私、くもりぞらさんについて、
ほとんど何も知らないんですよね」
553:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:28:34.41 ID:49/DQkd80.net
それはくもりぞらさんも知ってるでしょう?」
「ああ。見た。悪くない趣味だと思う」
「くもりぞらさんに褒められた!」
「こういう問題に関してはフェアなんだ、俺は」
「……ええと、それで、くもりぞらさんは、
何か好きなこととかあるんですか?」
「それは、うんと好きなもののことか?
それとも、ただ好きなもののことか?」
「うんと好きなもの」青空は僕の発言の
意図が分かったらしく、にんまり笑います
554:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:32:46.11 ID:49/DQkd80.net
「……うーん、説明を求めます」
「メリーゴーランドとか、観覧車とか、
オルゴールとか、時計とか、ひまわりとか」
「地球とか、月とか、太陽とか?」
「ああ。そうだな。天体も好きだ」
「私と、どっちが好きですか?」
「……ん?」
「ゆっくり回転する物と私」
「前者だな」
「……じゃあ、ゆっくり回転する私」
青空は立ち上がり、ゆっくり回りはじめます
556:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:42:01.70 ID:jW/AsEl50.net
557:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:42:31.15 ID:unF1Ok820.net
558:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:46:23.49 ID:49/DQkd80.net
ベンチから身を乗り出して青空を捕まえ、
再びベンチに座り、膝の上に青空をおいて
後ろから両手をまわして確保します
ゆっくり回転する物が好きなわけであって
青空と密着していると異様なほど安心することに
最近気づいたというわけではありません
「こんなに効果あると思いませんでした……」
青空はちょっと動揺した様子です
559:名も無き被検体774号+:2012/08/06(月) 23:56:47.82 ID:49/DQkd80.net
保冷剤代わりにして体を冷やしながら
僕と青空は駐車場に戻りました
晴れ渡った空の向こうには、積乱雲が見えました
街路樹に蝉がとまって鳴いています
この蝉も僕たちも、余命は同じくらいでしょう
どこかの家から線香の匂いが漂ってきます
よく日焼けした子供たちが、釣竿を持って
駆け抜けていき、それに合わせて風鈴が揺れます
560:名も無き被検体774号+:2012/08/07(火) 00:10:28.18 ID:sZcwAnKT0.net
「どこに行けば、あの得体のしれない
超能力から逃れられるっていうんだ?」
「わかんないけど、地球の反対側とかなら、
ちょっと難しそうじゃないですか?」
「それで、その後、どうするんだ?」
「小川が流れてたりするとこなんかに住むんです。
……そうでなきゃ、銀行強盗でもして歩きます?」
「で、八十七発の弾丸を受けて死ぬのか?」
「そうです。ボニー&クライドするんです」
「どっちも、あんまり現実的じゃあないな」
「知ってますよ。冗談です」
591:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 00:15:15.49 ID:YiBWYsQH0.net
松山けんいちは合ってる
599:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 04:18:46.05 ID:KnZYUgKJO.net
あー、ぽいかも
とくにイメージしてなかったけど
しっくりきたわw
600:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 05:03:15.31 ID:QiaMME6W0.net
それだ!
678:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 00:26:00.91 ID:KxOZjPlV0.net
ないわw
622:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 22:02:14.96 ID:lE2eu6q10.net
保守
625:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 22:42:59.20 ID:p/vEXlSh0.net
途中で寄ったCDショップで青空が買った
「ラバーソウル」がカーステレオから流れています
山道に入ると、急カーブが多くなり、
貧弱な青空は左カーブに入るたびに
「わー」と運転席に倒れ込んできます
いつの間にかベルトを外しているのです
一度は間違えて、右カーブなのに
運転席方向に倒れてきました
「さて」と青空が切り出します
「いまから、身勝手な話をします」
626:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 22:47:08.41 ID:p/vEXlSh0.net
そのことを後悔してはいるんです。
今思うと、あの人たちが具体的に
どんな悪さをしたのか私は知らないし、
仮に悪い人たちだったとしても、
私個人は全く恨みもなかったんです。
なんであんなことしちゃったんでしょう?
あの中にくもりぞらさんがいたとしても、
当時の私だったら殺しちゃったと思います。
そう考えると、やっぱりとんでもないことを
やらかしちゃったんでしょうね、私は。
……でもですね、九人目でやめて以降、
私の身に起きた一連の出来事については、
ひそかに、気に入ってさえいるんです。
それと引き換えにこれから起こる、
さみしい事態も考慮した上で、ですよ」
627:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 22:54:26.33 ID:p/vEXlSh0.net
僕は以前思いついた仮説を青空に話します
「なるほど」と青空は言います
「確かに私も、疑問には思ってたんですよ。
そもそもどうして、標的に関する情報が
自動的に頭に浮かんでくるのか」
「他にどうとでも利用できそうなその能力を、
標的の殺害だけに注ぎ込もうとしてしまうのか」
「そうそう。今考えると、妙ですよね」
630:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 23:02:12.45 ID:p/vEXlSh0.net
「証拠はどこにもないんでしょう?
私たちを操ってる人がいるっていう」
「そうだけどな、そんなこと言い出たら、
極端な話、俺たちの他殺にも証拠なんてない。
俺たちは自殺させたと思い込んでるだけで、
実際は、彼らがきちんと彼らの意志で
そうしていたのかもしれないんだ」
「そして何より」と僕は言います、
「どんな理由であれ、青空が自分の意志で
人を殺したりするとは思えないんだ」
「八人殺しました」と青空は言います
「ナイフは人を殺さない。ナイフで人を殺すんだ。
どっかの誰かが、青空で人を殺したのさ」
631:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 23:08:23.06 ID:p/vEXlSh0.net
「俺たちはおそらく、人を殺したっていうことから
気を逸らそうとするあまり、逆に必要以上に
責任を負おうとしてしまっていた部分がある。
だが、特にならない殺人をする理由がどこにあった?
いくらでも自分に利益をもたらせられるはずの
この能力を、どうして活用しようとしなかった?
おそらくこの能力には制限がかかっていたんだ。
俺たちが向こうの意にそぐわない行動をしないように」
632:名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 23:13:36.55 ID:p/vEXlSh0.net
青空はうつむいて、少し間を置きます
「でも、なんにせよ私は、だめですよ。
八人殺したおかげでくもりぞらさんに会えた、
あーよかったって考えてるようなやつですから」
「違う、八人で止めたから俺と会えたんだ」
青空は困ったような笑顔を浮かべます
「確かに、決してないとは言い切れない話です。
ですが、それでも犯人が確定するまでは、
ひとまず私がその責任を負うべきだと思うんですよ」
「素晴らしい心がけだな。犯人が分かるまでは
ひとまず殺されておこうってわけか?」
「だって、しかたないじゃないですか」
653:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 10:27:56.04 ID:GGIh9Ptr0.net
言われなくても僕だって気付いています
車を停めて、外に出ます
視界の上半分が青い空と白い雲なのに対し、
下半分は黄色と緑で埋め尽くされています
大きな白い風車が、いくつか回っています
「ひまわりもあるし、風車も回ってるし、
とってもくもりぞらさん的空間ですね」
青空が僕の隣で言います
654:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 10:32:56.91 ID:GGIh9Ptr0.net
制服の女の子とスーツの男
妙にちぐはぐな印象を与える二人が
並んでひまわり畑を見下ろしているのです
もちろん実際はそんなものを見たことはなく
たぶん単純に、その光景があまりにも
僕の好みに適合していただけなのでしょう
655:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 10:42:06.52 ID:GGIh9Ptr0.net
「んーと、メリーゴーランド、観覧車、
オルゴール、時計、ひまわり、天体」
そして、「ですよね?」という目をこちらに向けます
「そうだ」と僕はうなずきます
「それと、ゆっくり回転する私」
「ああ。別に回転しなくてもいいけどな」
青空は僕の目を見たまま固まります
「おー……不意打ちですね」
「こういうのは逆に困るだろう?」
「困ってます。照れてます」
まわんなくてよかったのかー、と青空はひとりごちます
656:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 10:51:44.02 ID:GGIh9Ptr0.net
「全部回る気なのか?」と僕は訊きます
「そうです。ゆっくり回るものを、
ひとつずつ、ゆっくり回りましょう」
それは確かに、理想的な過ごし方でした
「お前はそれでいいのか?」と僕はたずねます
「それがいいんですよ。好きなものばかり見て、
くもりぞらさんは生に執着しちゃえばいいんです。
死ぬのいやだーって私に泣き付けばいいんです」
「なるほどな」
658:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 11:00:23.60 ID:GGIh9Ptr0.net
「何だか、くもりぞらさんらしくないですね。
決定権は、いつでもあなたにあるんですよ?
したいと思ったことをすればいいじゃないですか」
「いや。もう俺も、あのうさんくさい力は失ったんだ。
もう青空を操ることはできない。良かったな」
「そんなこと問題になりませんよ、私、
あなたの言いなりになるの、癖になっちゃってますから」
「そうか」僕は納得します、「まわれ」
青空はその場でくるくる回りはじめます
670:名も無き被検体774号+:2012/08/09(木) 19:42:41.86 ID:Y48ycBxt0.net
なんかもう、この台詞にやられてしまった
続きが楽しみです
698:1:2012/08/10(金) 19:46:59.48 ID:Z/us+aeL0.net
・保守ありがとうございました
・今日こそ完結させます
701:1:2012/08/10(金) 20:03:21.21 ID:Z/us+aeL0.net
屋上遊園地などという時代錯誤的なものが
未だ存在していたことに驚きました
外装も城みたいで、大時代的です
「未だっていうか、新しく出来たんですけどね。
時代錯誤がむしろ格好良いみたいな
最近の風潮に合わせて作られたらしいです」
ここにはくもりぞらさんの好きなものが
いっぱいあるんです、と青空は言います
地下駐車場に車を停めると、店内に入ります
天井は呆れるほど高く、冷房ががんがんきいています
自分が縮んだような気になる場所でした
まだ夢が売っていた時代のデパートみたいです
702:1:2012/08/10(金) 20:09:58.31 ID:Z/us+aeL0.net
青空は僕を置いて中に入っていきました
ついていこうとすると、追い払われます
「くもりぞらさんはメロンでも見ててください」
青空なりにやりたいことがあるようです
仕方がないのであたりをうろつきます
デパートに来るのは久しぶりでした
おかげで、子供の頃の記憶が
そこにそのまま残っている気がしました
もちろんこの場所を訪れたことが
あるわけではないのですが
703:1:2012/08/10(金) 20:14:37.07 ID:Z/us+aeL0.net
行き交う人々は、みんな幸せそうに見えます
実際、ここを訪れるような人は、ある程度裕福で、
「余計なこと」に金を割く余裕のある人たちです
子連れの客が多く、どこの子供も、
絵本の中から出てきたような感じです
立派な服、整った顔立ち、綺麗な体つき
彼らの将来を考えて、自分の現状と比較し、
僕は勝手に落胆して溜息をつきます
704:1:2012/08/10(金) 20:19:48.10 ID:Z/us+aeL0.net
「さ、いきましょう」と青空は言います
何をしていたのかは聞かずにおきます
エレベーターが混んでいる様子だったので
いつも見るものより数段長いエスカレーターに乗ると
青空は壁に貼られた注意書きを指差しました
「黄色い線の内側では手を繋いでください、ですって」
「お子様と手を繋いで黄色い線の内側に、な」
「似たようなものです。私、年下ですから。
ほら、黄色い線の内側ですよ」青空は手を差し出します
僕はその白くて細い指をそっと握ります
すかさず青空がぎゅっと握り返してきます
706:1:2012/08/10(金) 20:28:38.01 ID:Z/us+aeL0.net
僕の顔を見上げて青空が笑みを浮かべます
「これだけじゃあ兄妹と似たようなもんだ」
「傍から見ても、そう見えますかね?」
「ああ。どう見ても仲の良い兄妹だ」
「これでも?」青空は自分の指を
僕の指の間に入れて、握り直します
「おいおい」と言いつつも、
僕はその手をしっかり握り返します
707:1:2012/08/10(金) 20:35:51.94 ID:Z/us+aeL0.net
場内に大きな音楽が流れ始めます
真上にある時計台からの音のようです
「からくり時計ですね」と青空が言います
「10万人目の来場者になったかと思いました」
「雨だ」と僕は手を差し出して言います
今はまだ弱いですが、徐々に強くなる類の降り方です
「雨ですね。じゃ、さっさと乗っちゃいましょう」
メリーゴーランドと観覧車を指差して青空は言います
濡れた石畳が遊具のカラフルな光を反射して
屋上はクリスマスみたいなことになっています
708:1:2012/08/10(金) 20:40:58.97 ID:Z/us+aeL0.net
チープなものではなく、凝った造形のものでした
念のために僕は言っておきます
「俺は見るのが好きなわけで、
別に乗りたいわけじゃないんだよ」
しかし青空は二人分のチケットを購入し、
結局僕たちは馬車に向かい合って座ります
合図が鳴り、馬車が動き出します
青空は身を乗り出して、僕に言います
「『とても酷いやり方』でいつか殺す、
くもりぞらさんはそう言ったわけですけど」
「言ったなあ、そういえば」
「どんなやり方なんです?」
709:1:2012/08/10(金) 20:46:01.84 ID:Z/us+aeL0.net
「そうだな。まず……簡単に殺しはしない。
時間をたっぷりかけて、じわじわ殺すんだ。
死ぬときに未練や後悔が残るように、
できるだけ生に対する執着が増すような、
そういう暮らしを、長期に渡って送らせる」
「時間をたっぷりって、いつごろ殺すんです?」
「幸福慣れするのに時間がかかりそうな
相手だからな、慎重にいく必要がある。
十年、二十年、場合によっては、百年でも」
「私は時間かかりますよー」、青空が得意気に言います
710:1:2012/08/10(金) 20:55:30.22 ID:Z/us+aeL0.net
屋上の客はどんどん減っていきます
観覧車に乗り込み、半分くらいの高さまで
昇ったところで、青空はぽつりと言いました
「百年かけて、殺されたかったなあ」
「俺もそうするつもりでいたさ」
「でも、難しそうですね」
「今となっては、明日も知れぬ身だからな」
「なんとかして、逃げられないものですかね?」
「俺もそれをずっと考えてる。でも向こうは、
その気になりさえすれば、何でも出来てしまう」
「うーん……」と青空は俯いて考えます
712:1:2012/08/10(金) 21:00:13.21 ID:Z/us+aeL0.net
観覧車が三分の二くらいの高さまで
来たところで、青空は言います
「くもりぞらさん、標的を自殺させる上で、
定められた手順を言ってみてください」
僕は頭の中の文章を読み上げます、
①その人の体をのっとる
②辛そうに振る舞う
③身の回りを綺麗にする
④遺書を書く
⑤死ぬ
「そう。そして、一つ目を阻止することは困難です。
でも、二つ目、三つ目、四つ目を、
全身全霊で邪魔したらどうなるんでしょう?」
714:1:2012/08/10(金) 21:49:07.12 ID:Z/us+aeL0.net
自殺する理由が見当たらないどころか、
絶対に自殺するわけがないって思われるくらい、
幸せになっちゃえばいいんじゃないでしょうか」
「まあ確かに、向こうには、周りに自然な自殺だと
思わせなければらない義務があるからな」
「そうです。くもりぞらさんの幸せはなんですか?」
「今まさにってところだな。青空といること」
青空は頬をかいて目を逸らします
「えーと……いや、すごく嬉しいんですけど、
こんなことで満足しないでください。
まだまだこれからじゃないですか。
こんな陳腐なことは言いたくないんですが、
生きてればもっと楽しいことが沢山ありますよ」
716:1:2012/08/10(金) 22:07:12.93 ID:Z/us+aeL0.net
その高さからは、雨に濡れた街が一望できます
窓にはりつくように下を見ながら、青空は言います
「そう。私はくもりぞらさんと同じ大学へ行くんですよ。
がんばって勉強して、くもりぞらさんの後輩になるんです」
「だいぶ頑張らないといけないな」僕は苦笑いします
「大丈夫ですよ。くもりぞらさんが教えてくれますから。
そうしてまた、一緒にカフェに行って勉強したり、
映画を観に行ったり、お酒を飲んだりするんです。
毎年、私たちに殺された人たちのお墓参りにいって、
あんまり派手な生き方はしないようにして、けれども、
必要以上に卑屈にはならず、強かに生きていくんです。
そう、明るい日陰で生きていくんですよ。
そのときは、今までみたいな話し方をやめて、
お互いとっても素直に、昔のことを話すんです。たとえば――」
726:1:2012/08/10(金) 22:51:02.70 ID:Z/us+aeL0.net
好きにならないように必死に努力したが、
結局は無駄に終わったこととか」
青空は目を丸くして僕の顔を見ます
「そういうことだろ?」と僕は念を押します
「……そうです。そういうことを話すんです。
課外が終わって会いに行ったとき、
私がわざわざ髪を切って、お洒落をして、
実はとってもはしゃいでいたこととか」
「アパートに青空があらわれたとき、
どうしてか、妙にほっとしてしまったこととか」
「足の心配をしてくれて抱っこしてもらったとき、
本当は皆に見せて回りたいくらいだったこととか」
「酔っ払った青空がとんでもなく可愛かったこととか」
「キスの件は、わざと勘違いしたふりをしたこととか」
727:1:2012/08/10(金) 23:05:07.70 ID:Z/us+aeL0.net
無闇にお互いを叩いて笑います
思えば、この夏は、僕も青空も
しょっちゅうずぶ濡れになりました
それでも、雨に濡れるのは初めてでした
あたたかいコーヒーを飲み終える頃
デパートに閉店を知らせる音楽が流れ始めます
外に出た僕らは、夜の雨の街を、
傘も差さずに歩きつづけます
青空は「雨にぬれても」を口ずさみます
見込みのない二人は、いつまでも
手遅れの幸せについて語ります
728:1:2012/08/10(金) 23:12:45.41 ID:Z/us+aeL0.net
青空に言われて空を見上げると
ぼんやりした月が浮かんでいました
「残念ながら、星は見えませんけど」
青空は鞄から何かを取りだします
僕には、梱包を剥がす前から
それが何なのか分かります
「もちろん、オルゴールです」
青空はそれを僕に手渡します
グランドピアノの形を模した
シリンダーオルゴールです
「これで、くもりぞらさんの好きなものは、
ひとまず全部そろいましたね」
曲を流してみてください、と青空は言います
729:1:2012/08/10(金) 23:22:11.92 ID:Z/us+aeL0.net
ぜんまいを巻いている最中
不意にふわりと、僕の心の曇りが晴れます
僕を直接殺そうとしていた意思とは別の
もっと上の存在からの操作から逃れ、
自由になることができたのでしょう
途端、押さえつけられ、弱められていた
僕の人間的感覚が開放されます
目の前の少女が、突然、
かみさまみたいに見えてきます
ああ、そうだったのか、と僕は思い、
何も言わず、僕は青空を抱き締めます
青空は「うわっ」と驚きつつも
すぐに抱きしめ返してくれます
そうだよな、と僕は思います
これくらいの気持ちが溢れていて当然だったんだ
730:1:2012/08/10(金) 23:30:33.32 ID:Z/us+aeL0.net
くだらない繰り返しから抜け出させてあげよう、
こんな卑屈で先のない幸せにすがらなくとも
もっと心の底から笑えるようにしてあげよう、
オルゴールが終わるころには、
僕はそう決意していました
でも結局、その日が僕らにとって
最後の日となりました
731:1:2012/08/10(金) 23:34:20.50 ID:Z/us+aeL0.net
732:1:2012/08/10(金) 23:35:07.29 ID:Z/us+aeL0.net
これでお話は大体お終いです
733:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:35:26.32 ID:PM6G4KQD0.net
734:1:2012/08/10(金) 23:35:47.64 ID:Z/us+aeL0.net
神経質そうな目をした女の子でした
735:1:2012/08/10(金) 23:36:24.99 ID:Z/us+aeL0.net
笑い方がとっても控えめな女の子でした
736:1:2012/08/10(金) 23:37:33.83 ID:Z/us+aeL0.net
737:1:2012/08/10(金) 23:38:10.95 ID:Z/us+aeL0.net
738:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:39:47.80 ID:ZVmED/nAO.net
オルゴールから流れた曲はなんだったのかな?ちょっと気になる
748:1:2012/08/10(金) 23:59:54.80 ID:Z/us+aeL0.net
よっぽど書こうかと思ったんですが、
チキンなので書かずにおきました!
742:1:2012/08/10(金) 23:44:56.98 ID:Z/us+aeL0.net
何人か気づいている方もいたようですが、
作者は「げんふうけい」の俺です。
http://fafoo.web.fc2.com/other.htm
保守してくれた人、感想くれたりした人、ありがとう!
743:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:48:25.13 ID:2hTIQpIw0.net
お疲れ様
744:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:49:50.89 ID:PM6G4KQD0.net
意図や意味も何となくわかるけどちょっと最後は急すぎたかな?w
とにかく長い事お疲れ様でした 面白かったよ
748:1:2012/08/10(金) 23:59:54.80 ID:Z/us+aeL0.net
急ですよね! これに関してはもう、
ごめんなさいとしか言いようがありません。
745:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:50:05.73 ID:uJT79wvX0.net
幸せな時間をありがとうございました
765:1:2012/08/11(土) 00:45:37.30 ID:5vpohHP10.net
800:名も無き被検体774号+:2012/08/12(日) 09:42:38.30 ID:la3cqraCO.net
ちょっと泣いた。
幸せになって欲しかった(´;ω;`)
801:名も無き被検体774号+:2012/08/12(日) 12:08:18.73 ID:i6+2Fxey0.net
というから、結局青空とくもりぞらも二人とも死んでしまったんだと思う
それが幸せだったのかそうでなかったと感じるのは読み手次第
書籍化しても売れそうだな
817:忍法帖【Lv=4,xxxP】:2012/08/14(火) 11:17:11.20 ID:fCncWnBQ0.net
823:名も無き被検体774号+:2012/08/14(火) 23:47:49.89 ID:Acl3hKDZO.net
「でも、その日が最後の」ってのは二人が“人を 自 殺 させるだけの簡単なお仕事”の輪廻から外れたって意味だと思う。だって後日談を曇り空視点で話してるし。
多分、最後の会話が二人だけの秘密なのは、二人に操作してた人が輪廻から外れた二人に関与できなくなったから、今までは覗かれてたけども、このときからは二人の会話を誰も覗けないって意味だと思う。
人を殺した人間は死ぬべきだってのが途中かかれてるけど、曇り空の推測が正しければ上の人間が殺したと“そう思わせてただけ”だから、青空も曇り空も人は殺してないから死ぬ必要もないしね
818:名も無き被検体774号+:2012/08/14(火) 11:27:31.09 ID:i0v6EGpV0.net
741:名も無き被検体774号+:2012/08/10(金) 23:42:39.41 ID:CxNq8CeT0.net
久方ぶりにいい話読めたよ
GJ
タイトルが嫌だから読んでないけど自意識過剰も行き過ぎると病だなあ
綺麗な世界に逃げ込んで耐性なくなるだけだぞ気を付けろ
何が始まって何が終わったのか
急に超短編小説風を挟んでくるこのぉ
3行でばっさり切り捨てたコメがあるかなって思ったらなかった
そりゃ読まないよなこんなん
長すぎて読む気にならない
ただのSSじゃねえか
人の不幸話をまとめるからふよ速なのに
そうだそうだ人の不幸話をもっとくれ!
どんな話か教えてくれ
※5
ただのSSじゃないぞ
出来の悪いSSだ
「特殊清掃員に部屋を掃除される奴が大半。特殊清掃員とはそういうお仕事です」
って感じで特殊清掃員の仕事して数年の人が語るまとめかと思ったのに、出来の悪いラノベだったわ…
こんな下手くそな文章を、最後まで読める人間が要るなんて信じられん
数行読んでゾワッとしてギブアップした
ちょいちょい1がでしゃばって入ってくるのが気持ち悪いな
一応最後まで読んだけど結局くもりぞらが解放された理由が誰かに愛されたからとかだったらうまく収まりそうな話
とにかく全部中途半端。最後まで読まなくていいよ
2012年にはウケる内容でも、2018年にはウケないよ
陳腐すぎる
読まずにコメ欄来たけどお前らもかよ!!読めよ!!笑
最後が雰囲気ハッピーエンドになってて台無し。途中までは結構良かったのに…。