勇者「拒否権はないんだな」
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関連スレ:魔王「ああ……世界は美しい」
魔王「ああ……世界は美しい」【番外編】
勇者「俺は……魔王を倒す!」
338:1:2013/02/07(木) 14:33:14.40 ID:QudjTzFw0
古の神との忘れられた契約。
限りなく遠く、果てしなく近い最果ての地。
神は光と闇を生み出し、大地を作り水を育み炎を抱き過ごした。
一つ、命が産まれた。
それは紛れも無い命だった。
339:1:2013/02/07(木) 14:35:55.40 ID:QudjTzFw0
神はそれに、ヒトと言う名を与えた。
一つ、命が産まれた。
それもまた、紛れも無い命だった。
それは生み出し、使役する事ができた。
神はそれに、マと言う名を与えた。
340:1:2013/02/07(木) 14:41:19.38 ID:QudjTzFw0
神はその都度、相応しい名を与えた。
何時しか、命は神の手を離れた。
ヒトとマの境界は薄れ、何時しか光と闇は混じり合った。
命は国を作った。
太陽が昇り、月が沈む。
命は命を作った。
月が昇り、太陽が沈む。
341:1:2013/02/07(木) 14:49:35.46 ID:QudjTzFw0
光と闇だった。
命は、光と闇の獣だった。
……
………
…………
少女「………」ポケー
神父「……聞いてますか?」
少女「……ッ あ、すみません、神父様!」キイテマス!
神父「ふふ……怒ってはいませんよ、僧侶」
僧侶「すみません……なんだろう、話を聞いていると…」
僧侶「目の前に……イメージ?が…広がったんです」
342:1:2013/02/07(木) 14:53:47.54 ID:QudjTzFw0
僧侶「神様は、大きくて……暖かい、風の様でした」
僧侶「そこに優しい水と、力強い炎と、暖かい風が絡んで……」
僧侶「輝く影がどこまでも伸びているような……」ハッ
僧侶「ご、ごめんなさい、偉そうに……ッ」
神父「……いいえ。そうして想像する、膨らませると言うのは大事なことですよ」
神父「想像力があると言う事は、魔法を扱う上で重要ですからね」
343:1:2013/02/07(木) 14:56:39.62 ID:QudjTzFw0
神父「良い、癒やし手になるでしょう」
僧侶「あ、ありがとうございます……」
神父「さて、今日はここまでにしましょう。この本を書庫に直し、食事の準備を手伝って下さい」
僧侶「はい、神父様」
神父「午後からは、お使いを頼まれてくれますか?」
僧侶「はい、私でよろしければ」
神父「では、裏山で薬草を摘んできて下さい。種類はあとでメモにしておきますから」
344:1:2013/02/07(木) 15:06:21.25 ID:QudjTzFw0
………
…………
僧侶「ええと……これ、と…これと」プチプチ
僧侶「あれ、これどっちだっけ……確か、これが……」プチプチ
僧侶「ふぅ、こんなモン……かな?」
僧侶「……よし。さあ、日が暮れる前に帰らなく……ッ !!」ドクン!
僧侶(なに、これ……ッ 胸、が……ッ)ドクン
僧侶(違う、頭……ッ 何かが……)ドクン
僧侶(流れ……こんでくる……!?)ドクン、ドクン
僧侶「ヒ、カリ、と……ヤミ…… 失われ……」
僧侶(な、に……!? …寂しい、辛い……イタイ、カナシイ…… )
僧侶「……二つの、大きな……命…… 失われた……?」
345:1:2013/02/07(木) 15:11:29.88 ID:QudjTzFw0
僧侶(………胸が、苦しい)
僧侶「………早く、戻ろう………神父さま ……のところ」タタタッ
……
………
………
僧侶「神父様!」バタン!
神父「…どうしました、僧侶。ドアは静かにね?」
僧侶「す、すみません、あの、あの……ッ」
神父「落ち着いて……ね?何があったのです」
僧侶「……先ほど、何か……大きな…光と、闇…? あの」
神父「……?」
僧侶「……二つの、命が……失われました」
神父「………」
僧侶「その……感じ、ました」
神父「そう、ですか……」
僧侶「………」ジィ
神父「大丈夫です、僧侶。そんな不安な顔をしないで」
神父「……貴女は、感じる事ができますから」
僧侶「でも、こんなの……し、知り……ません」
346:1:2013/02/07(木) 15:17:44.23 ID:QudjTzFw0
僧侶「とても……」ポロポロポロ
神父「私には…残念ながら感じる事はできませんから、貴女の涙を共有する事はできませんが」
神父「気を強くもって下さい……引きずられてはいけませんよ」
僧侶「……はい」
神父「貴女がもう少し大きくなったら……お話ししますね」
僧侶「……?」
神父「いえ……それより、薬草は集まりましたか?」
僧侶「あ、はい……!睡眠草と、着つけ草……それから毒消し草です」
神父「………僧侶」フゥ
僧侶「はい?」
神父「……着つけ草と毒草は間違いやすいから、気をつけてとあれほど」ハァ
僧侶「あ、ああああ!すみません!」マタヤッチャッター!
神父「全く……明日、やり直しです」
347:1:2013/02/07(木) 15:25:00.68 ID:QudjTzFw0
………
…………
僧侶「神父様、薬草集まりましたよ」キィ、パタン
神父「……ああ、お帰りなさい……すみません。その机の上に」
僧侶「はい……すぐ、お食事にしますね」
神父「僧侶、その前に」
僧侶「……はい?」
神父「話しておきたい事があります」
僧侶「無理、なさらないで下さい…神父様、お顔の色が……」
神父「では、なおさらです………貴女を、森の中の川の傍で拾って」
神父「……もう、30年以上経ちました」
僧侶「はい……」
神父「私は……老い、もう歩く事も侭成りません」
神父「貴女は……人では無い。今の姿は……未だ、少女のそれです」
僧侶「……はい」
神父「気付いていました……よね」
351:名も無き被検体774号+:2013/02/07(木) 17:21:43.39 ID:CP8D9rqrO
∧_∧ +
(0゜・∀・)
ワクワクテカテカ
(0゜∪ ∪ +
と__)__) +
368:名も無き被検体774号+:2013/02/07(木) 21:46:25.97 ID:lfPw0lRz0
369:名も無き被検体774号+:2013/02/07(木) 21:50:16.83 ID:hVoHiBPK0
370:324:2013/02/07(木) 22:06:56.71 ID:GD7MxM240
373:1:2013/02/07(木) 23:17:00.31 ID:QudjTzFw0
神父「モンスターが、力をつけ始めています」
僧侶「……はい」
神父「以前、貴女が言いましたね……あの日を、境に」
神父「とても輝かしい光が産まれた。この世の全ての光の祝福を受けるべき、命が産まれたようだ……と」
僧侶「…はい。まだ私が幼い頃に感じた……命の灯火の消失の時と、同じように……感じました」
僧侶「ですが……」
神父「……貴女は、悲しそうな顔で続けてこう言った……」
神父「至上の喜びの様で居て、とても寂しく悲しいと」
僧侶「……あの時、神父様は……何も教えてくれませんでした」
僧侶「自分には感じる事はできないから、と」
神父「はい」
僧侶「……どうして、と。今、お聞きしてもよろしいですか…?」
374:324:2013/02/07(木) 23:22:00.31 ID:GD7MxM240
376:1:2013/02/07(木) 23:24:21.37 ID:QudjTzFw0
うわあああああ、可愛い!
えーと、自分の中のイメージは……あー
スレンダー(ひんぬー)で勝ち気なおねーさんタイプ、かなぁ
でも凄い可愛い!
なんとなーくショートヘアなイメージだったんだけど
……そうか、こんなに可愛いイメージもってくれてのか!
ありがとおおおおおおおおおおおおおおおお!
やる気出てきた!
書くよ!
379:名も無き被検体774号+:2013/02/07(木) 23:30:04.73 ID:hVoHiBPK0
375:1:2013/02/07(木) 23:22:13.51 ID:QudjTzFw0
僧侶「……?」
神父「貴女が自分の目で本を読み、感じ、考える事ができるようになった頃」
神父「私は、貴女のお母様の事を初めて話しました」
神父「ショックを受けるだろうとは思いましたが……何れは知らねばならぬ事です」
神父「貴女が、私を父の様に慕ってくれている事は分かっています」
神父「私も、娘の様に……貴女が、可愛い」
神父「ですが……貴女は、エルフの娘」
神父「人の子よりも遙かに永い時を生きる貴女は……いつか己の姿に、私と……人と違う者であることを」
神父「……感じ、知るのですから」
僧侶「ハイ……」
378:1:2013/02/07(木) 23:29:46.65 ID:QudjTzFw0
自分に絵心ないので羨ましい限り。
そんでもってこうやって書いて貰えるのはものすげぇ嬉しい。
神父「貴女の母であろうエルフは、産まれたばかりの貴女と、エルフの弓をこの世に遺しました」
神父「それは……きっと意味のあることなのだと思います」
神父「私の教えは、幼い貴女には辛かった事でしょう」
神父「毎日のお祈りも、古書を読み解く事も、薬草の扱いも……」
神父「なのに貴女は、文句一つ言わず、素直に従事してくれた」
神父「今では、初歩的な回復魔法も身につけ、あまつさえ、弓の才能までも開花させた……」
神父「エルフの血を引くというだけでなく、貴女自身のがんばり、努力の賜です」
神父「もし、何時ぞや……くじける事があっても」
神父「血を、知を……誇り、胸を張って前に進もうとして、下さい」
377:324:2013/02/07(木) 23:27:16.47 ID:GD7MxM240
1番歳上なイメージあるんだけど、年齢どの辺りになるんだろう?
描き直してみるよ!!
380:1:2013/02/07(木) 23:31:33.39 ID:QudjTzFw0
戦士=魔法使い>勇者>僧侶(見た目だけ)
かな
18前後>16>14.5(実際は60前後)
みたいな
383:1:2013/02/07(木) 23:38:28.01 ID:QudjTzFw0
神父「泣き虫なところは……幼い頃の侭ですね」クス
神父「泣くことなど、無いでしょうに……」
僧侶「……ッ は、ぃ…です、が……」
神父「私の……命の火はもう……そんなに、小さいですか?僧侶」
僧侶「!!」ビク
神父「……ふふ、素直さも貴女の良いところですよ」
神父「僧侶、貴女の父は……人間です」
僧侶「……え?」
神父「回復魔法は、弱くも強くもある……人の子だけが扱える特別なもの」
神父「人間だけの特権です……エルフの血を引く貴女が扱えると言う事は」
神父「貴女の半分は、人の子の血で構成されていると言う、証」
神父「貴女は……ハーフエルフ。その正体を知られると…」
神父「危険な目に遭うこともあるでしょう…なるべく、人には知られない様に……なさい」
僧侶「神父様……! わ、私は、ずっとここに……ここに、居ます!」
389:1:2013/02/07(木) 23:45:51.66 ID:QudjTzFw0
神父「私が土に還ったら……貴女は、ここを旅立ちなさい」
僧侶「神父様!」
神父「私には感じる事はできません。ですが……世界には、この美しい大地のどこかに」
神父「きっと……貴女を必要とする、人が居ます。から……」
僧侶「………」グス……ヒック
神父「なるべく、街を転々となさい。一所に長く留まらぬ様……」
神父「なるべく、人に奇異の目を向けられぬ様……貴女が、危険な目に遭わない様に」
神父「自分自身で、回避してください」
僧侶「……ッ」グス、ポロポロポロ
神父「さっきの質問に、応えましょう……あの時、答えなかったのは」
神父「簡単です……答えられなかった、からですよ」
僧侶「……神父様」
神父「何度も、言いますが……私は感じる事はできません」
神父「僧侶、貴女のその感情は貴女だけのもの」
神父「貴女が今まで見て、知り感じたもの……今から、そうするであろうもの」
神父「一つ一つを大事にし……自分で、答えを見つけなさい。見つけて……下さい」…ゴホッ
僧侶「神父様! …もう、もう良いです!もう良いですから……しゃべらないで!」
390:1:2013/02/07(木) 23:52:10.53 ID:QudjTzFw0
神父「ですが……この暖かい大地、澄み渡る空……そういう、モノ一つになれるのです」
神父「……寂しくは、ありません。だから、貴女も……そんなに泣かないで」
僧侶「……神父様、嫌です……ッ」ギュッ
神父「ごめんなさい、僧侶……そうして抱きしめられても」
神父「貴女の髪を撫でる腕は、上がらないんです……」
神父「……僧侶。良く聞きなさい」
神父「貴女が感じた、輝かしい命の誕生……それは、多分」
神父「勇者様の…命の、光です」
僧侶「勇者……さま?」
神父「そうです……人間を、世界を……命を滅ぼす、魔王を倒せる唯一の希望」
神父「光に導かれし、運命の……子」
神父「貴女が、例え……勇者様と共にあらずとも」
神父「その光を……視界に写し、心に焼き付ける事は……」
神父「貴女にとって……プラスになるでしょう」ゼィゼィ
僧侶「神父様!神父様! いやああああ!」
391:1:2013/02/07(木) 23:54:51.21 ID:QudjTzFw0
神父「ここを離れ、貴女の旅に……出るのです……僧侶」
神父「私の………む、す………」スゥ……
僧侶「神父様!嫌です!いや………ッ あ……ッ」
神父「………」
僧侶(……神父様の、命の、炎が………きえ………)
僧侶「神父様ぁぁぁぁぁ!」ウワアアアン
僧侶「……一人は、嫌、で………す……」
……
………
…………
392:1:2013/02/07(木) 23:58:30.66 ID:QudjTzFw0
僧侶(……神父様の弔いを済ませて、書庫にある本を片っ端から……読んで過ごした)
僧侶(何度も神父様に読んでいただいたおとぎ話から)
僧侶(昔は難しくて、読めなかった……古詩や魔術書まで)
僧侶「………」
僧侶(私は……これからどれぐらい)
僧侶(一人で過ごさないといけないんだろう)
僧侶(一つの所に留まることは……出来ず)
僧侶(……親しい人も、作れない。心を……許せない)
僧侶(………エルフの、血なんて)
僧侶(ハーフエルフなんかに、産まれた為に……ッ)
393:1:2013/02/08(金) 00:03:56.01 ID:VnfNDb9g0
僧侶(……勇者様、か)
僧侶(私には……関係、無い世界の出来事)
僧侶(世界なんて、終わるなら………終われば、良い)
僧侶(私は………ッ)
……
………
…………
僧侶「神父様……」
僧侶「こうして、毎日……話しかけても」
僧侶「貴方は……もう、答えては下さらない……」グス
僧侶「神父様。お言いつけ通り……旅に、出ようと思います」
僧侶「神父様の魂は、空の彼方へと還られた……」
僧侶「……器を蔑ろにする…私を、許して下さい」グス
僧侶「本当は、嫌です。嫌ですけど……」
僧侶「…………行ってきます。偶に、帰るのは……構いません、よね?」
僧侶「………」
僧侶「………」
僧侶「………」クルッスタスタスタ
……
………
…………
394:1:2013/02/08(金) 00:10:25.80 ID:VnfNDb9g0
僧侶(ここは……水分と賑やかな街ですね……)
僧侶(?? …あっちに人だかりが)スタスタ
「ねぇねぇ、聞いた!?勇者様が、お生まれになったんですって!」
「知ってる!でもさぁ、まだ幼い子供なんでしょ? …残念!」
「お前何考えてんだよ、歳が合ってても相手になんかしてもらえねぇよ」
「そういう意味じゃ無いわよ! …一目みたいじゃない、ねぇ?」
「旅立たれるのって……16歳になったら、よねぇ、確か」
「その頃……ああ、私達おばさんねぇ……」
「だから、さぁ……」
「い、良いじゃないの!夢見るぐらい!」
僧侶(………夢、か)
「で、何処の国にいらっしゃるの?」
「始まりの街だってさ……この近くの港から船が出てるし行ってくれば?」ゲラゲラ
「だからそんなんじゃないって!あぁ……でもさぞかし美少年なんだろうなぁ」
「……顔で魔王倒す訳じゃねぇだろが」
僧侶(はじまりの街……港)
僧侶(勇者様が……16歳になるまで……否。ずっとこの街にはいられない)
僧侶(かといって、はじまりの街に今から滞在する訳にも……)
395:1:2013/02/08(金) 00:13:07.65 ID:VnfNDb9g0
僧侶(仕方ない……港に近い町なら、人の出入りも激しいでしょうし)
僧侶(しばらくは、ここに……)
僧侶(それから……2.3年ごとに)
僧侶(……だったら、多分大丈夫……よね)
僧侶(まずは、教会探さないと……)
僧侶(働かなきゃ)
僧侶「えっと……」キョロキョロ
僧侶「あ……すみません、そこの……えっと、お嬢さん」
??「え?私? …なぁに、お姉ちゃん」
396:1:2013/02/08(金) 00:15:41.79 ID:VnfNDb9g0
僧侶「知ってます?」
??「ええ、知ってるわ。そこの細い道を、丘の方に上がっていったらあるわよ」
僧侶「ああ!そうですか……ありがとう!」
??「……お姉ちゃんは、えっと…かみにつかえるおしごと、とか言う…人?」
僧侶「ええ、そうです。よく知ってますね」ニコ
??「回復魔法が得意なのよね!私もね、大きくなったら、一杯魔法覚えたいの!」キラキラ
僧侶「そうですか……頑張って下さいね」
僧侶(夢のある、目………夢、か)
397:1:2013/02/08(金) 00:19:18.76 ID:VnfNDb9g0
??「私も、お父さんとお母さんみたいになるんだ!」
僧侶「……素晴らしい夢をお持ちですね。くじけないように…頑張ってくださいね」
僧侶(父……母。 ……ああ、神父様、私は……ッ)
??「……お姉ちゃん、どうしたの?どこかいたいの?」オロ
僧侶「え?」
??「なんか……泣きそうな顔、してる」
僧侶「あ、ああ… いいえ。大丈夫です。何でもありませんよ」
僧侶「修行の辛さを、ちょっと……思い出しただけです」
??「う……やっぱり、辛いのね」ウゥ
僧侶「ああああ、いえ、でも、あの! …夢に向かって、頑張れば……きっと、叶いますよ」アタマポンポン
??「……うん!私、頑張る!」ニコ
398:1:2013/02/08(金) 00:22:29.55 ID:VnfNDb9g0
??「ううん、お父さんとお母さんは、あそこの道具屋さんで……あ、来た!」
僧侶「ああ……良かったです。貴女はこの町に住んでいらっしゃるんですか?」
??「ううん、これから船に乗って、遠い街まで帰るの」
??「港町はコウエキがサカンだから……何とか?」ヨクワカンナイ
僧侶「そうですか……では、旅の無事をお祈りしていますね」
僧侶「ありがとうございました、お嬢さん」
「魔法使い!帰るわよ!」
魔法使い「はーい、ママ!お姉ちゃん、バイバイ!」
僧侶「ええ、さようなら……さて、教会は……あっちですね」
……
………
…………
399:名も無き被検体774号+:2013/02/08(金) 00:27:04.35 ID:xZ5sZsk60
400:1:2013/02/08(金) 00:32:19.96 ID:VnfNDb9g0
太陽が昇り、月が沈む。
命は命を作った。
月が昇り、太陽が沈む。
命は、命だった。
光と闇だった。
命は、光と闇の獣だった。
光は星でもあった。
静かに、音も無くただ、大地を照らし続けた。
闇は夜でもあった。
静かに、音も無くただ、大地を包み込んだ。
獣は、獣だった。
雨に濡れ、太陽に灼かれても。
命として、そこにあった。
番外編1 おしまい
番外編2につづきます
402:324:2013/02/08(金) 00:36:39.87 ID:gVokuPRG0
403:1:2013/02/08(金) 00:37:53.97 ID:VnfNDb9g0
雨に濡れ、太陽に灼かれても。
命として、そこにあった。
獣は、ヒトだった。
ヒトは、雨を凌ぎ、太陽を凌ぐ術と知を身につけた。
ヒトは、弱かった。
命は、儚かった。
404:1:2013/02/08(金) 00:42:05.41 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「ハイ! ………ッ 炎よ!」ゴォ!
父「………ッ 良し、そこまでだ…流石、私の…いや、私と母の子だ。偉いぞ」
魔法使い「!! …ありがとう、パパ!」
父「……魔法の腕と覚えは良いが、他は変わらないな、お前は」
魔法使い「あ……ご、ごめんなさい」
父「父とは言え、師。言葉遣いと態度はきちんとしなさいと、何度言えば分かる」
魔法使い「…………」
父「……謝罪もできんのか」
魔法使い「も……申し訳ありませんでした」
父「……… では、食事だ。母に準備をするように伝えてきなさい」
魔法使い「……ハイ」クルッスタスタスタ
405:1:2013/02/08(金) 00:48:01.16 ID:VnfNDb9g0
母「そう……お疲れ様、魔法使い。どうだった?」
魔法使い「はい。以前教わった炎の魔法は、コントロールできるようになったようで」
魔法使い「…お父様に褒めて戴きました」
母「そう!それは素晴らしいわ。やはりお前の炎の加護には期待できるわね」
母「私とも父とも違う瞳を持って生まれてきた時はどうしようかと思ったけれど…」
母「素晴らしい素質を持っているのね、流石、私達の子ね」
魔法使い「あ……ありがとう、ございます」
母「父は、なんて?」
魔法使い「食事に、しようと……仰っておられました」
母「そう、じゃあすぐに準備するわね」
母「出来る迄貴女は、自分の部屋にいらっしゃい」
母「新しい魔法書を買っておいたわ。それを明日までに読むこと」
魔法使い「はい……お母様」スタスタスタ
406:1:2013/02/08(金) 00:53:44.11 ID:VnfNDb9g0
魔法使い(新しい魔法書……これか)ズシ
魔法使い(重い……これを明日までに読め、ですって!?)
魔法使い(……無理、って弱音を吐ければ、どれだけ良いか)
魔法使い(優れた加護………)ペラ
魔法使い(父も、母も……持っている)ペラ
魔法使い(二人と違う属性を持って生まれた私)ペラ
魔法使い(産まれて落胆した、なんて……何度も聞いたわ)ペラ
魔法使い(……聞き飽きたわ!)ペラ
魔法使い(平気よ)ペラ……グス
魔法使い「……頭に、入らない」
407:1:2013/02/08(金) 00:56:05.83 ID:VnfNDb9g0
……
………
…………
魔法使い(……進まない)ペラ
魔法使い(書庫、行きたいな)ペラ
魔法使い(おとぎ話とか、古書とか、古い詩とか……)ペラ
魔法使い(鍛錬、しだす前は……朝から晩まで、読んでたな)ペラ
魔法使い「ああ、駄目だ……無心、無心」
母「魔法使い!食事よ」
魔法使い「は、はい!すぐ行きます!」ガタ
魔法使い(……今日は眠れないわね)
408:1:2013/02/08(金) 01:04:17.92 ID:VnfNDb9g0
魔法使い(粗相、しないように……ちゃんと食べないと)カチャ
魔法使い「いただきます」
母「はい、召し上がれ……父、魔法使いはどう?」
父「そうだな、炎の魔法に関しては、後は数をこなす、経験を積むことだろう」
父「正直、教えることは……無い」
魔法使い「………」
母「魔法使い、父に感謝のお言葉は?」
魔法使い「あ、ありがとうございます!その……そう、言っていただけて嬉しくて」
魔法使い「その、思わず、言葉に……詰まりました」
父「うむ、それは……まあ仕方ないな。許す……が、食事中といえど気を抜くな」
父「実戦では命取りだ」
魔法使い「はい……申し訳ありません」
母「では……そろそろ良いかしらね」
父「ああ、そう思って申し込んでおいた」
魔法使い「?」
父「一週間後、港町へ行け」
魔法使い「……???」
父「始まりの街で、闘技会が開かれる」
父「港町から船に乗り、お前はそれに出場するんだ」
魔法使い「私が、ですか?」
母「そうよ。それで優勝できれば、名も通り勇者様の旅立ちに連れて行っていただける可能性が高くなるわ」
魔法使い「勇者様の……旅立ち?」
409:1:2013/02/08(金) 01:09:12.67 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「はい……存じ上げております」
父「勇者様は16の歳になると、魔王を討伐する旅に出られる」
父「まだ数年先だが、その時になれば、旅の共を選ばれるだろう」
父「あの街では勇者様がお生まれになってから」
父「三年に一度、こうした闘技会を開催している」
父「お前は今年、それに出場するのだ」
魔法使い「え……ちょ、ちょっと待って下さい!何時の間に、そんな!」
母「魔法使い」ジロ
魔法使い「………」
父「勝て、そして名を売れ。そして、勇者様と共に旅立て」
魔法使い「………そ、そんな、無茶な」
410:1:2013/02/08(金) 01:14:07.40 ID:VnfNDb9g0
母「私と父の子です。何が無茶であるものですか?」
父「そうだ……お前なら出来る」
父「優れた炎の加護を持っていれば、お前の身は炎に焼かれる事は無いのだし」
父「お前が優勝すれば、我が家の名にも箔が付く」
魔法使い「!!」
母「一週間、私と父と、みっちり鍛錬すれば、大丈夫ですよ」
父「そうだ。お前の炎の魔法の筋は悪くない」
父「否、素晴らしい素質を備えているに違いない。優れた加護を受けし者なのだから」
母「きっと、素晴らしい結果を出せるわ」
母「さぁ、魔法使い。食事を済ませたら、部屋に戻って書の続きをなさい」
母「大丈夫よ」
父「そうだ。大丈夫だ。お前は、この父と母の子なのだからな」
……
………
………
411:1:2013/02/08(金) 01:23:27.26 ID:VnfNDb9g0
魔法使い(……勇者様の旅立ち、って……)ペラ
魔法使い(どうして、どうして何時も、あの人達は……!)ペラ
魔法使い(……一週間、地獄だな)ペラ
魔法使い(寝れる、かな……ああ、でも読んでしまわないと)ペラ
魔法使い(さっぱり頭に、はいんないや)ペラ…
魔法使い(……昔は、こんなんじゃ無かったのに)
魔法使い(パパと、ママと……三人で良く、港町、行ったな…)
魔法使い(………あの頃、は……)
魔法使い(スゥ……)
……
………
…………
魔法使い「ヒトと、マは……」ブツブツ
魔法使い「あ、この挿絵綺麗……これが、エルフ?ふぅん…」
魔法使い「人と変わらないんだな……」ブツブツ
魔法使い「良し!読んだ! …次は、こっち……ん、炎の…?」
魔法使い「何時もパパとママが、炎の加護がどうとか……言ってたな」
魔法使い「……ふふ、二人とも、吃驚するかな」
魔法使い「ええと…まず、深呼吸して……」
魔法使い(………)
魔法使い「炎よ!」ポッ
魔法使い「!!」
魔法使い「で………できた!」
魔法使い「出来た!私にも出来た!」
魔法使い(驚くかな……ううん、絶対褒めてくれる!)
母「魔法使い-?まだ本読んでるの?おやつにするわよー?」
魔法使い「!! はーい、ママ!今行くわ!!」タタタ
魔法使い「ママ!見てみて!」
母「まあ、どうしたのそんなに慌てて……」クスクス
魔法使い「(……スゥ)炎よ!」ポッ
母「!!」
魔法使い「ねぇ、ママ、見た!?今の、見た!?」
412:1:2013/02/08(金) 01:29:20.35 ID:VnfNDb9g0
魔法使い(……え?ママ?)
母「魔法使い、どれぐらい練習したの?」
魔法使い「え…書庫で本、見つけて……やってみたらできたの」
母「…本当に?」
魔法使い「う……うん!本当に!」
母「そう……これは……やはり、期待できるわね」
魔法使い(褒めて……くれないの?)
母「魔法使い。凄いわ!」ニコ
魔法使い「! …う、うん!凄いでしょ!?」ニコ
母「ええ、流石私と父の子ね! …産まれた時、私とも父とも違う属性を持っているようだから」
母「……あまり、期待していなかったけど……良く出来たわね!」ニコ
魔法使い(……あ、あれ……)
魔法使い(褒められてる筈なのに……嬉しく、ない……)
魔法使い(なんで……?)
413:1:2013/02/08(金) 01:35:09.61 ID:VnfNDb9g0
母「ああ、父……実は、魔法使いが……」
魔法使い(パパとママ……なんか話してる)
魔法使い(凄い、とか……サスガ、ワタシタチノコとか……)
魔法使い(何でだろう……涙が、でそう)
父「そうか……魔法使い」
魔法使い「は、はい、パパ……なぁに?」
魔法使い(やっと、褒めてくれる?何時もみたいに、頭なでなで、って……)
父「正直、お前には余り期待をしていなかった」
父「しかし、属性が違っても、やはり私達の子だ」ニコ
父「今までは仕方ないと諦め、甘やかしてきたが……」
父「今日から、私と母は、父と母であり、そうでない。お前の師だ」
魔法使い「え………」
父「今日からは、お父様お母様と呼びなさい。そして、師と仰ぎなさい」
母「そして、きちんと敬語で話すこと。常に気を引き締めて居ること」
父「お前は必ず、素晴らしい炎の使い手になる……優れた炎の加護を持っているのだからな」ニコ
魔法使い「パパ、ママ……」
父「違う」
魔法使い「お、とう……さま、おかあさ……ま」
母「そうです。それから、今日限り書庫への立ち入りは禁じます」
魔法使い「!!」
母「貴女に相応しい本は、きちんと選んであげるから心配しなくて大丈夫よ」ニコ
414:名も無き被検体774号+:2013/02/08(金) 01:36:37.33 ID:SVoeBtmDP
415:1:2013/02/08(金) 01:40:12.32 ID:VnfNDb9g0
………
…………
魔法使い(ん………夢?ああ……私…寝ちゃったのか…)
魔法使い「!! ……ッちょ、今……ッ …ああ、もうこんな時間…ッ」
魔法使い(それにしても……懐かしい夢を……見たな……)
魔法使い(続き……読まなきゃ)ペラ
……
………
…………
一週間後
母「では、気をつけて行ってらっしゃい、魔法使い」
父「頑張ってこい」
魔法使い「ええ……行ってきます」スタスタ
魔法使い(長い一週間だった……まだあちこち痣だらけ)
魔法使い(……でも、見つからなくて良かった)
魔法使い(火傷……こんなの、見られたら……ッ)
魔法使い(……目的が目的で無ければ)
魔法使い(悠々自適、一人旅………喜ばしい筈なのに、ね)
魔法使い(………ああ、行きたくない)
魔法使い(でも、行かなくちゃ。勝たなくちゃ)
416:1:2013/02/08(金) 01:50:08.14 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「相変わらず、賑やかねぇ……あら?」
魔法使い(あの丘の上に……確か教会があったはずなのに)
ボォオオオ…
魔法使い「あ!出航の合図!?急がなきゃ…ッ」
魔法使い(……何時の間になくなっちゃったんだろ)
魔法使い(長く来てないからな……まぁ、良いか)
魔法使い「すみません!乗ります!」
……
………
………
魔法使い「着くのは明日の朝、か……」
魔法使い「で、昼前には大会が始まるのね……」
魔法使い(のんびりする暇は、無いなぁ……)
コンコン
魔法使い「はい!」
船員「失礼します、お食事をお持ちしました」
魔法使い「え?頼んでませんけど……」
……
………
…………
魔法使い(なんかやたら良い部屋だと思ったら)
魔法使い(特別室ですって!?)
魔法使い(豪華なベッドに、豪華な食事)
魔法使い(……我が家の娘に相応しく、か)
魔法使い(一人で食べても、つまんない)
魔法使い(確か……用があったら呼び鈴ならせとか言ってたわね)
チリンチリーン
コンコン
船員「お呼びでしょうか?」
魔法使い「………わ、ワイン頂戴」ウワ、コエウラガエッタカッコウワルイ
船員「……赤と白がございますが?」
魔法使い「え!? あー、赤で」ドウチガウノ
船員「グラスでよろしいですか?」
魔法使い「え、ええ…結構よ」ナニソレホカニナンカアルノ
船員「すぐにお持ち致します」
パタン
魔法使い「………」
コンコン
魔法使い「はい!」ハヤッ
船員「グラスワインの赤でございます」
魔法使い「あ、ありがとう……」
パタン
417:1:2013/02/08(金) 01:58:12.31 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「苦……ッ」
魔法使い「………何、やってんだろうな、私」
魔法使い(誰かと、食堂で食べたかったな)
魔法使い(私………)
魔法使い(一人って……さみ、し……)スゥ
……
………
…………
始まりの街
魔法使い「……頭が、イタイ」ズキズキ
魔法使い(気がついたら朝だった…ここが、はじまりの街)
魔法使い(凄い……港町に引けを取らないぐらい賑やか…
魔法使い(闘技会、か……)
魔法使い(いやだなぁ……)
「出場者の方ですか?」
魔法使い「え!あ、ハイ!」
「では、コチラにお並び下さい」
魔法使い(………並ばされてしまった)
魔法使い(長蛇の列……これ、全員……出場者!?)
魔法使い(うわ、あの人凄い筋肉……てか、剣でかッ)
魔法使い(あんなの振り回すの!?)
魔法使い(あっちは……双剣かな)
魔法使い(………いや、無理無理無理!)
??「おい」
魔法使い(殺されちゃうって!)
??「おい!」グイ
魔法使い「はいいぃ!?」
??「出場者か?」
魔法使い「え、あ……はい」
魔法使い(厳つい鎧……この人も、出場者?)
418:1:2013/02/08(金) 02:05:02.13 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「え? …あ」
魔法使い(腕の火傷か……見えてたのね)
魔法使い「これは別に……痛くないから」
??「そうか……では好きにしろ」クル
魔法使い「あ、待って!貴方も……出場者?」
??「違う……俺は出られない」
魔法使い「え、でも……鎧着てるじゃない」
??「……父が騎士として勤めているからな」
魔法使い「???」
??「騎士の身内は出れないルールだ。審判を勤めるのも騎士だからな」
??「公平を期すためだ」
魔法使い「ああ、そうなんだ……えっと、残念ね」
??「何故だ?」
魔法使い「え?だって……勇者様の目にとまるかもしれないじゃない?」
419:1:2013/02/08(金) 02:09:03.98 ID:VnfNDb9g0
??「背伸びをし、愚かさを晒すのは御免だ」
??「勇者様と共に…と考えるなら」
??「それまでにもっと鍛えれば良い」
??「……ここで、自信を無くせば遠回りになる」
魔法使い「………」ポカーン
??「もう良いか、行くぞ」
魔法使い「ああああああ、待って!」
??「なんだ?」
魔法使い「あの、あ、ありがとう!」
??「……は?」
魔法使い「あ、えっと! …な、名前聞いて良い?」
??「……戦士」クルスタスタスタ
魔法使い(ぶ、無愛想な奴………)
魔法使い(でも……不思議。なんか……あいつの言葉で)
魔法使い(胸のつかえが……取れた、気がする)
魔法使い(………良し!)
420:1:2013/02/08(金) 02:13:08.49 ID:VnfNDb9g0
魔法使い「ごめんなさい、辞退するわ!」
「は!?」
魔法使い(未熟、か……そう、そうよね)
魔法使い(ここで優勝なんて……無理だろうし)
魔法使い(いやいや出たって……どうせ実力は出せないわ)
魔法使い(堅苦しい敬語もやめた!)
魔法使い(頭が痛くなるだけのお酒も)
魔法使い(でも、このまま帰らなかったら……心配するかしら)
魔法使い(……優勝出来なかったら、また…蔑まれるだけよね)
魔法使い(だったら、実力で……勇者様の仲間になれば良いのよ!)
421:1:2013/02/08(金) 02:15:04.60 ID:VnfNDb9g0
魔法使い(今日は、宿にとって)
魔法使い(まず、食事をしよう)
魔法使い(それから……!)
……
………
…………
422:1:2013/02/08(金) 02:19:18.63 ID:VnfNDb9g0
ヒトは、雨を凌ぎ、太陽を凌ぐ術と知を身につけた。
ヒトは、弱かった。
命は、儚かった。
ヒトは、強かった。
命は、輝いていた。
儚い輝きは、未来へと続いていた。
未来は、過去だった。
番外編2 おしまい
番外編3へ続きます
423:1:2013/02/08(金) 02:20:32.77 ID:VnfNDb9g0
……今日は、も、無理__○_モウネルココデネル
おやすみー
425:名も無き被検体774号+:2013/02/08(金) 03:26:47.61 ID:ZoI8DJkL0
続き楽しみにしてるよ
427:名も無き被検体774号+:2013/02/08(金) 09:48:40.05 ID:xZ5sZsk60
442:名も無き被検体774号+:2013/02/09(土) 00:09:01.39 ID:sW/vFvRC0
444:1:2013/02/09(土) 00:38:50.24 ID:gipQmr780
命は、輝いていた。
儚い輝きは、未来へと続いていた。
未来は、過去だった。
過去は、現実だった。
現実は、夢でもあった。
445:324:2013/02/09(土) 00:48:06.16 ID:sW/vFvRC0
続き読みたいけど今日は限界だからまた明日以降orz
i.imgur.com/ZtqTzhA.jpg
448:1:2013/02/09(土) 00:55:45.00 ID:gipQmr780
戦士「100……ッ」フゥ
戦士(……良し、これを後……)
父「おい、戦士」
戦士「……ああ、親父か。何だ」
戦士「急ぎじゃ無いなら後にしてくれ」
父「お前なぁ……実の親父に愛想の無い……」
父「まあ良い、俺はでかけるから、後は頼んだ。今日は多分帰らんよ」
戦士「そうか……1ッ」ブンッ
父「……せめて俺の顔ぐらい見てくれよ…つれない息子だ…」トボトボ
父「ああ、飯代おいとくからな!鍛錬も良いけど、ちゃんと食えよ!」
戦士「……5ッ… ……ああ」
パタン
戦士(……後、94…ッ)
……
………
…………
戦士「……今日は……これぐらいで」フゥ
戦士「親父……ああ、出かけたんだったか」
戦士(飯代……これだけ、か?)
戦士(……全く。食って動かねば筋肉にならんと言うのに)
449:1:2013/02/09(土) 01:01:52.19 ID:gipQmr780
戦士(立派な騎士様が毎夜酒場通いとは)
戦士(平和の証、か……くだらん)
戦士(一人分を作るなら、外で食った方がマシか……)
パタン
……
………
…………
旅籠
「いらっしゃーい、あら、戦士君!開いてるところ座ってね」
戦士「ああ……スープと、飯をくれ」
「……君ねぇ、育ち盛りなんだから、もうちょっと食べないと」
戦士「…親父に言ってくれ、それは」
「え?なぁに……質素倹約も騎士の証!とか? …流石騎士様ねぇ」
「ちょっと待ってね~、すぐに…… はいはーい!すぐ行きます!」
戦士「ち……!」
戦士(違う、と否定したところで、どうしようも無いか)
戦士(流石、ね……あいつの本性を知れば驚くだろうに)
戦士(それとも……お得意の話術で美談に持ち込むか)
戦士(……いい年して、節操ないからな)
451:1:2013/02/09(土) 01:08:17.35 ID:gipQmr780
「いつも食べに来てくれるからね……女将さんには内緒。今日の牛肉のワイン煮は…イイできだから」
戦士「……すまない、ありがとう」
「良いのよ……その代わり、後でちょっと…良い?」
戦士「? …ああ」
「私、後30分ほどで終わるから。ゆっくり食べててね」スタスタ
戦士(なんだ? …まあ良い。正直……助かる)
戦士(貴重なタンパク源だ……食欲もそそる)
戦士(……いただきます)
……
………
…………
「ごめん、お待たせ!」
戦士「ああ、別に……」
「もう食べ終わった?じゃあ……ちょっと、酒場に行かない?」
戦士「……俺は酒は飲まん」
戦士(それに……親父と鉢合わすのは……勘弁して欲しい)
戦士「ここでは駄目なのか」
「ん……じゃあ、ちょっと外、歩こうか」
戦士「では、家まで送ろう。街の外れだったろう……夜道に女一人は街中といえど、な」
「あらあら、戦士君……立派になって」
戦士「ちゃかすな……行くぞ」
452:1:2013/02/09(土) 01:13:54.30 ID:gipQmr780
「んー……二年前さぁ、闘技大会、あったじゃない?」
戦士「? …ああ」
「あの時、戦士君出てなかったよね」
戦士「騎士の身内はでれんからな」
「それで、さぁ……」
戦士「……」
「………」
戦士(……帰って、もう少し鍛錬をしたいんだがな。急かして良いものか)
「……優勝者、覚えてる?」
戦士「双剣使いの長身の男だろう。覚えているが」
「私……あいつに結婚申し込まれちゃってさ」
戦士「……はぁ」
「はぁ、って、君ねぇ! …まあ、良いわ。それでね」
「来年は闘技大会、無いでしょ? ……いや、暫く、か……」
戦士「そうだな……勇者様が16歳になられるからな」
戦士「勇者様が旅立たれた後まで、このお祭り騒ぎは続かんだろう」
453:1:2013/02/09(土) 01:17:02.19 ID:gipQmr780
「景気良いの、今のうち……だけ、じゃない?」
「騎士様達も、国の警備やらなんやらで……今は忙しいけど」
戦士「今も、だろう……騎士達の毎日の勤めは変わらん」
「……そっか、そうだよね」
戦士「…何が言いたい?」
「……その、優勝した奴にさ、結婚申し込まれてさ」
戦士「それは……さっき聞いたが」
「ん、もう!だから……国を出ようって言われたのよ!」
戦士「………はぁ」
戦士(さっきから、何が言いたいんだ……)
「そしたら、もう会えなくなるじゃない!」
戦士「………誰に」
454:1:2013/02/09(土) 01:21:55.69 ID:gipQmr780
戦士「………い、いや……すまん、しかし、さっきの話に、どうつなが……」
「貴方の、お父様によ!」
戦士「………」
戦士(また……奴か)
戦士「……いや、だか」
「景気が悪くなっちゃうと、女将さんだって私を雇う余裕無くなるかもしれないし」
「そしたら、あいつが言う通り、港街にでも行った方が、職あるかもしれないけど」
「でも、騎士様は……この国、離れられないじゃない!?」
戦士(……ああ、なるほど。やっと話が繋がった)
戦士(もう少し……当を得たしゃべり方ができんもんか)
「だから、さ……」
戦士「だから、と言って……」
戦士「それを俺に言って……どうするんだ?」
455:1:2013/02/09(土) 01:27:18.76 ID:gipQmr780
「騎士様、奥様を亡くされて長いじゃない」
「……お母さん、居なくて寂しいなんて歳じゃ無いかもしれないけどさ」
戦士(ああ……うんざりだ)
「その……騎士様、ね?前に酒場で……」
戦士「その先はあいつ……否、父に直接言うんだな」
戦士「俺ができることは何も無い」
「そ、そんな冷たい事言わなくても良いじゃない!貴方、息子でしょ!?」
戦士「……双剣の男はどうするんだ」
「そりゃ……もし、騎士様が……」
戦士(……ハァ)
戦士「奴の女好きは今に始まったものではない」
戦士「……さあ、ついたぞ。家はこの近くだろ」
「………ッ もう、良いわよ!」プンスカ。スタスタ。バタン!
戦士(………)スタスタ
……
………
…………
456:1:2013/02/09(土) 01:32:27.91 ID:gipQmr780
戦士(親父は……帰ってないな)
戦士(全く……あいつは見境なしに口説いて回るから)
戦士(……母が死んで10年か)
戦士(騎士と言う身分で、食うには困らんとは言っても)
戦士(男で一つで厳しかったろうとは思う……感謝はしている、が)
戦士(亡き母に操を立て続けろと言う気も無いが)
戦士(こっちの身にもなってくれ)
戦士(………鍛錬、しよう)
バタン!ガタガタガタ!ドン!
戦士「!? …なん……ッ」
父「かえったーぞー!おぉ、起きてたのか、息子ー!」
戦士「親父……」サケクサイ…
父「みずー…みず、く……」スゥスゥ
戦士「…………」
戦士「……風邪は引かんだろう、この季節……放っておくか」
戦士(……全く)
457:1:2013/02/09(土) 01:35:45.59 ID:gipQmr780
父「おう、早いな戦士」
戦士「…起きてたのか」
父「あー…昨日は悪かったな」
戦士「その台詞を聞かんで良い日を作って欲しいもんだ」
父「ほんとお前、冷たいねぇ…」
戦士「冷たくされなかったら身の程を弁えろ」
父「……泣くぞ」
戦士「おっさんが泣いても可愛くないぞ」
父「ほんとに……この子は……」シクシク
戦士「鬱陶しいからやめろ……行ってくる」
父「また鍛錬か? …精が出るねぇ」
戦士「仕事だろう、早く行け」パタン
458:1:2013/02/09(土) 01:41:17.82 ID:gipQmr780
父「仕方ないな、一人で行くか」
……
………
…………
戦士(……45.46……)
戦士(毎晩浴びるように酒を飲み……)
戦士(毎朝、何でも無かったような顔で、俺よりも早く起きる)
戦士(……健全な肉体には健全な精神?)
戦士(どこがだ。酒浸りで何時も目の下に隈を作っているような男だ)
戦士(………68.69)
戦士(加齢と共に衰えたとは言え……)
戦士(騎士としての勤めも、必要な体力も筋肉も残して)
戦士(……)
戦士(99……100ッ)ブンッ
459:1:2013/02/09(土) 01:44:53.72 ID:gipQmr780
戦士「俺が……父を尊敬しているから、か」
戦士(頭では……分かっているんだけどな)
戦士(……あの女癖の悪ささえなければな)
父「お、いたいた、戦士!」
戦士「! …なんだ、仕事はどうした。ついに首になったか」
父「戦士、それは酷い」
戦士「………すまん」
父「今日は直行直帰。お前も誘おうと思ったのに、人の話聞かないからさぁ」
戦士「?」
父「勇者様とご母堂様に会ってきたんだよ」
戦士「………親父が?」
父「……騎士、ですから、父さん」
戦士「父さんとか言うな気持ち悪い」
460:1:2013/02/09(土) 01:50:42.07 ID:gipQmr780
戦士「な……ッ 聞いて、たのか」ハズカシイナクソ
父「お前は素直じゃないねぇ。独り言はもっと小さな声でねぇ?」
戦士「……切るぞ、このロクデナシが!」マッカ
父「いやいやいや、お前じゃまだ無理……まあ、とにかく家、入れ」
父「……ちょっと話がある」
戦士「……?」
……
………
…………
父「飯まだだろ、今日は俺が作ってやるよ」
戦士「……ああ」
戦士(親父の飯か……何時から食ってないんだか)
父「まあ、座っとけ。んで、聞け」
戦士「……なんだ」
父「まあ、さっきも言ったけど、会ってきたんだよ」
戦士「勇者様と母君にか」
父「そ……あの人達の家はさ、この国の人達もはっきりとした場所を知らないわけだ」
戦士「何かあっては困る、どころじゃないからな」
父「そう……で、まあ、騎士でも一握りの人間しか知らない」
戦士「ああ」
父「まぁ、実際俺がお前連れて会いに行ったとして」
父「それがばれたら父さん、失職どころか首も危ういんだけどな」ハッハッハ
戦士「……笑い事じゃない」アホウカ
461:名も無き被検体774号+:2013/02/09(土) 01:51:04.91 ID:H7u45RQ60
462:1:2013/02/09(土) 01:55:41.59 ID:gipQmr780
戦士「なんだ」
父「お前、勇者様を守りたいと思うか?」
戦士「……は?」
父「あー…だから、勇者様と一緒に旅をしたいと思うか?」
戦士「……選ばれたとしたら光栄な事だからな」
父「そうじゃねぇよバカタレ。名誉だとか、そういうのはどうでも良いの」
父「守りたいか?守れるか? ……世界を、救いたいか?」
戦士「!」
父「……そういうこと」
戦士「俺……は」
戦士(俺は、強くなりたい。誰よりも……親父よりも)
戦士(何のためだ。世界を守るため?誰かを守るため……)
戦士(俺は……どうして強くなりたいんだ?)
父「まだわからん……か、な」
父「いや、まだ分からなくて良いんだ。ただ……」
父「お前は強くなりたいんだろ? …身体だけ鍛えたって、意味はねぇんだよ」
父「まぁ…蒸し返して悪いけどさ」
父「お前のさっきの独り言だ。俺を…尊敬してくれるのは嬉しいさ」
463:1:2013/02/09(土) 02:01:33.69 ID:gipQmr780
父「目、きらきらさせてた時にはもう、こう…食べちゃいたい位可愛い!って思ったけどもさ」
戦士「………」ヤメロコロスゾ
父「だから、とりあえず身体鍛えなさいって言ったわけ」オマエジャムリダッテ
父「俺はまだ、お前より強いよ、戦士」
父「守らなくちゃいけないものがあったからな」
戦士「………」
父「病気で死んじゃったけど……母さんも、お前も」
父「この国の人達も。今では、勇者様と母君も、だ」
父「今はまだわからなくて良いけどさ。守りたいものが出来た時」
父「よわっちぃと、どうしょうも無いだろ?」
父「だから、鍛錬は大事。基盤が出来てりゃ、いざって覚悟が出来た時」
父「……お前は多分、俺よりも強く………」
戦士「………」
父「訂正。俺ぐらいには強くなるかな」
戦士「……おい」
父「そりゃそーだろ!この街には母さんの墓があるんだから!」
464:1:2013/02/09(土) 02:07:13.36 ID:gipQmr780
戦士「……守るもの、守りたいもの、か」
父「そ……で、もし勇者様にあって」
父「お前が守る覚悟を覚えたなら……って思ったんだけど」
父「失職する訳にいかんしなぁ」
戦士「……珍しくまともな判断ができたじゃないか」
父「酷ッ ……あれ、戦士ちゃん、顔が赤いでちゅよ?」
父「どうした。父さんが格好良いと思ったら、素直に言っていいんだよ!」
戦士「死ね」サァシネイマシネスグシネ
父「……流石に、泣くってば。まぁ、でも……」
戦士「なんだ、死ぬ覚悟ができたか」
父「違うわ! …もし、勇者様とお前に、縁があれば」
父「導かれるだろうよ」
戦士「………そう、か」
戦士(国中の誰からも好かれる立派な騎士様、か)
戦士(………成る程な)
465:1:2013/02/09(土) 02:11:49.69 ID:gipQmr780
戦士「これは……鋼の剣?」
父「まあ、本当になんの変哲も無いそこら中で売ってる奴だけどな」
父「俺が使い込んでるから、お前の手にもなじむよ」
父「俺だと思って、肌身離さず大事に……ッ 振り上げるな、ごめん父さんが悪かったごめんなさい!」ダカラケンオロシテ
戦士「……ありがとう、親父」
父「でかくなったなぁ、お前……」
戦士「……アンタに育てて貰ったからな」テレ
父「…照れた顔はかわい………ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ヤメレ
父「良し……しゃべってる間にできた。食べるか!」
戦士「………この黒焦げの物体はなんだ」
父「え?お肉」
戦士「……阿呆!もったいない!」ヤッパキル!
……
………
…………
467:1:2013/02/09(土) 02:14:37.53 ID:gipQmr780
戦士(…俺も親父の様に、強くなれるか?)
戦士(勇者様を守りたいか……まだ、わからん)
戦士(しかし………)
戦士(………)
戦士(鍛えて、おくか)
戦士(新しい剣……手になじまさんとな)
……
………
…………
468:1:2013/02/09(土) 02:20:20.63 ID:gipQmr780
過去は、現実だった。
現実は、夢でもあった。
寝て見る夢、現実に見る夢。
共に、希望を抱き、絶望に抱かれる。
共に必ず、願いがある。
番外編3 おしまい
番外編4へ続きます
469:1:2013/02/09(土) 02:22:09.33 ID:gipQmr780
番外編は多分、次で最後。
書き終わったら新スレ立てるかもかもかも。
寝ます。おやすーみー
471:名も無き被検体774号+:2013/02/09(土) 03:25:34.44 ID:HeW9gIHq0
まあのんびり書いてくれや
楽しみにしてるね
501:1:2013/02/10(日) 10:55:17.68 ID:/n/QRTCg0
共に、希望を抱き、絶望に抱かれる。
共に必ず、願いがある。
命は願い、祈った。
命は喜び、悲しみ、寂しさを覚えた。
例えヒトとマが違えたとしても、同じであることを願った。
502: 【Dnews4vip1359891986499941】 :2013/02/10(日) 11:08:00.49 ID:dvXEz+630
503:1:2013/02/10(日) 11:19:38.56 ID:/n/QRTCg0
母「お帰り勇者……お疲れ様。大丈夫だった?」
勇者「母さんはいつもそれだなぁ」
母「大事な貴方に何かあったら困るもの……全部あった?」
勇者「うん、それにしても……王様って親切だよなぁ」
母「………そうね」
勇者「わざわざ食料とか、届けてくれるんだもんね」
母「街中とは言え……貴方や私に、もしなんかあったら、っていう配慮よ」
母「……甘えすぎなのは分かっているけど」
勇者「うん……でも」
勇者「母さんに何かあったら、俺だって困る…て言うか、嫌だ」
504:1:2013/02/10(日) 11:48:29.71 ID:/n/QRTCg0
勇者「何いってんの、そんな細い身体して」
母「ふふ……」
勇者「じゃあ、俺これ片付けてくるから。あ……そうだ、手紙入ってたよ」
母「手紙?」
勇者「厳重に封印してあるよ……母さん宛」
母「何かしらね……ああ、お片付けお願い。全部裏の物置で良いわ」
505:1:2013/02/10(日) 11:53:47.48 ID:/n/QRTCg0
勇者(……凄いよな、勇者って)
勇者(物心ついた時には、この家に母さんと住んでた)
勇者(食料から衣服まで、全部……王様が家の近くの小屋まで届けてくれる)
勇者(決まった日、決まった時間に小屋まで取りに行って……)
勇者(必要なモノを書いた紙を置いて、帰ってくる)
勇者(……不自由は、確かに無かった。けど……)
506:1:2013/02/10(日) 12:04:15.23 ID:/n/QRTCg0
勇者(否……小さい頃から母さんに聞かされてきた)
勇者(魔王は、勇者にしか倒せない。そして、勇者は、世界に一人しか存在できない)
勇者(だから、勇者は……俺は)
勇者(こうして、危険が無いように、街の外れに居を構え)
勇者(必要無い限り、街にも降りられず、ひっそりと……16の誕生日を待つ)
勇者(……王国保護の箱庭の隅に監禁されてる)
勇者「………」
勇者(裏庭を駆け回って、遊ぶ事ができた)
勇者(たまに、こっそり……母さんと街にも遊びにいった)
勇者(母さんが居たから、寂しくはなかった。けど……)
507:1:2013/02/10(日) 12:14:20.52 ID:/n/QRTCg0
……
………
…………
母「勇者、母さん小屋まで行ってくるね」
勇者「……ねぇ、母さん大丈夫?そんな細い腕でさ……荷物、重いでしょ?」
母「ん?まだまだ大丈夫よ?」
母「母さん、まだまだ若いんだから……」
勇者「うん……気をつけて帰ってきてね?」
母「勇者は心配性ねぇ……んーじゃあ」
勇者「?」
母「今日から、勇者が取りに行ってきてくれる?」
勇者「え……良いの!?」
母「荷物、重いよ?」
勇者「うん!」
母「まあ……歩いて一分もかからないし」
勇者「うん!」
母「じゃあ、これ。お手紙、荷物の代わりにおいてきてね?忘れちゃ駄目よ?」
勇者「うん!」
母「……一人で大丈夫?」
勇者「大丈夫だよ!僕……ううん、俺、もう10歳だぜ!」
母「ふふ……じゃあ、お願いね。母さん、待ってるから」
……
………
………
勇者(…そうだ、5年前だ)
勇者(あれから、俺が行くようになった)
勇者(人には会わなかった)
勇者(母さんはあれから……ほとんど何処にも行かなくなったな)
512:1:2013/02/10(日) 14:04:34.53 ID:/n/QRTCg0
母「ご苦労様。もうすぐ出来るからね」
勇者「ねぇ、母さん」
母「ん?」
勇者「母さんは……寂しくない?」
母「……何が?」
勇者「あ……手伝うよ。 …街にも出なくてさ。父さんも……居なくて」
母「ありがと… 勇者は、私と二人で……寂しかった?」
勇者「俺? …いや。母さんがいたから」
母「……私もよ。私も、勇者が居たから寂しくなかったよ?それに…」
母「父さんと約束したもの。立派な勇者にする、ってね」
勇者「……でも、母さん、まだ若いんだしさ」
勇者「再婚、とか…」
母「それは……出来ないなぁ。考えたことも無い」
勇者「俺が……居るから?勇者……だから?」
513:1:2013/02/10(日) 14:13:15.29 ID:/n/QRTCg0
勇者「……俺がハズカシイよ」
母「嘘じゃ無いもん。愛してるよ……父さんも、勇者も」
勇者「……ん」
母「そういえば何時だっけね。勇者つれて、こっそり街に行ったよね」
勇者「覚えてるよ。俺が、荷物受け取りに行く様になった頃?」
母「うん、そうだね。あれが最後だったかな」
勇者「アイス買って貰ったな。賑やかで楽しかった」
勇者(そうだ……あの後も、何回か連れて行けって……駄々捏ねたな)
勇者(でも……母さんは、寂しそうに、困った様に笑って)
勇者(ごめんね、って……言うだけだった)
勇者(……泣きそうな顔、してた)
勇者(いけない事なんだ、って……何となく気がついて)
勇者(言わなくなったんだ……)
515:1:2013/02/10(日) 14:19:16.82 ID:/n/QRTCg0
勇者「うん……俺は、勇者だから……」
母「………」
母「さ、できた。食べようか……お皿、並べてね」
勇者「うん」
母「ああ、そうだ、明日ね」
勇者「?」
母「お城の騎士様がいらっしゃるのよ」
勇者「……ここに?」
母「貴方の旅立ちも近いから………ね」
勇者「…………」
母「勇者?」
勇者「……ごめん、嫌な訳じゃ無いんだ」
勇者「その日の為に、母さんは……俺をこうやって、一人で立派に育ててくれた訳だし」
勇者「………」
母「寂しい?」
勇者「…ちょっと、だけ」
母「そうね、でも……」
勇者「……?」
母「うん、寂しいけどね、母さんも」
母「連れて行ってあげれなかった分、一杯街を、世界を見ていらっしゃい」
母「人に触れて、色々な経験して………強くなって」
母「……貴方なら、絶対…魔王を倒せるわ」
母「勇者ですもの………私の、可愛い息子ですもの」
勇者「母さん……」
521:324:2013/02/10(日) 21:02:54.87 ID:RlQiJwCZ0
i.imgur.com/lEkgBT4.jpg
i.imgur.com/KCND7hW.jpg
i.imgur.com/AmyppTP.jpg
今規制されてて代行にお願いしてるのでレス頂いてもお返事できないかも。スマヌ。
522:名も無き被検体774号+:2013/02/10(日) 21:14:14.47 ID:09yKXVG70
523:名も無き被検体774号+:2013/02/10(日) 22:03:05.27 ID:WQVlm9T50
524:名も無き被検体774号+:2013/02/10(日) 22:12:19.52 ID:MOuI7oxV0
527:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 00:26:20.30 ID:ksxOkYT20
勇者「…うん」
母「さあ、片付けてしまおっか」
母「午前中には騎士様がいらっしゃるわ……今日は早く、寝ましょう」
……
………
…………
翌朝
勇者(なんか……落ち着かない)ウロウロ
勇者(そりゃそうだ……母さん以外の人と会うなんて何年ぶりだ?)
勇者(ましてや……面と向かってしゃべるなんて)
勇者(………産まれて初めて、だぞ……俺)
母「勇者、落ち着かないのはわかるけど……」
勇者「あ、ごめん、母さん……」
母「ううん、仕方ないって分かってるんだけど」
母「折角裏庭で摘んだお花、はげちゃうわよ……全部」クスクス
勇者「あ………ご、ごめん!」アセ
コンコン
勇者「!!!」キタ!
母「はぁい?」
騎士「勇者様、母君様。城から参りました、騎士でございます」
母「どうぞ。開いてます」
勇者(………き、緊張する)
528:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 00:37:45.64 ID:ksxOkYT20
カチャ
勇者(人だ……ッ)アタリマエダケド
騎士「些か不用心ですかな、開けたままと言うのは……貴方が、母君様?」
母「ええ、初めまして、騎士様……いらっしゃるのが騎士様ですから。何かあっても守って下さる、でしょう?」
騎士「それは勿論……しかし、びっくりしました。母君様と言うよりは……」
騎士「まだ少女の様だ。 …勇者様と同じ年頃と言っても通りそうですね?」
母「ふふ、ご冗談を……お口が達者でいらっしゃるのね。ほら、勇者…ご挨拶、なさい?」
勇者「あ、あの……すみません。勇者です……初めまして」
騎士「お初にお目にかかります、勇者様。騎士でございます。本日は……少しの間、お付き合い願います」
勇者「あ、はぁ……」
……
………
…………
529:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 00:45:37.08 ID:ksxOkYT20
騎士「旅立ちの日、すなわち勇者様がめでたく16歳におなりになられる日」
騎士「王の間へとお立ち寄り下さい」
騎士「僅かですが、旅の役に立つようにと金銭をご用意するそうです」
母「まぁ」
勇者「は、はい……」
騎士「勇者様は……王様にお会いになったことは?」
勇者「い、いえ……ありません」
騎士「そうですか。当日、ゆっくりと言葉を交わす暇は無いでしょうから」
騎士「お望みであれば、一度謁見の機会を設けますが?」
勇者「………母さん?」
母「自分で決めなさい、勇者。貴方の旅は、貴方のもの」
勇者「ええ、と……」
騎士「お返事は今日で無くともよろしいですよ」
勇者「いえ……あの、お願い致します」
騎士「……そう、仰ると思いました」ニコ
勇者「……?」
騎士「いえ、ね。私事になるんですが」
騎士「私にも、息子がおりまして」
騎士「歳も勇者様と近いんですが……ただ、強くなりたいと申すんですよ」
勇者「………」
騎士「何の為に強くなりたいか、何を守りたいのか」
騎士「まだ、なぁんにも分かっちゃ居ないんでしょうが」
騎士「強くなるためならって、何でも吸収しようと言うその意欲は」
騎士「同じ、剣を握るものとして、同じ男として……父として、ね」
騎士「単純に、褒めてやりたくなるんですよ」
騎士「ついでに、与えてやれるものなら、与えてやりたい、ってね」
530:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 00:53:04.53 ID:ksxOkYT20
勇者(父親ってのは……母親とはまた違った意味で)
勇者(暖かい、のかな……この人も、息子を愛してる…んだろうな)
勇者(息子ってのが騎士になりたいのかはわかんないけど)
勇者(道を同じくするなら、か……)
勇者(………良いな、そういうの)
勇者(勇者は……一人しか居ない、からな)
騎士「鍛錬を欠かすなと言えば、朝夜版」
騎士「肉は筋肉に良いと言えば、肉を食い、睡眠が重要だと言えばきっちり休んで」
騎士「機械みたいな生活、してやがりますよ」
騎士「今度は柔軟性が必要だと教えてやろうかと思うんですが」
騎士「そしたら体操しだしそうな……ま。筋肉馬鹿なんですけどね」
勇者(俺の親父……生きてたら、この人みたいだったのかな)
勇者(この人の息子が……ちょっと羨ましい)
騎士「何時だったか、脳を働かすには糖分が必要だって言って」
騎士「パフェ食わせたら、すっかり甘党になっちゃってねぇ」
騎士「嘘じゃ無いし、必要ない訳じゃ勿論無いんですが」
騎士「一緒に飯食う度に、ジャンボパフェ食うんですよ」
騎士「いっかつぃ身体してパフェですよ……」ククク
騎士「似合わねぇにも程があるってね」アハハハ
勇者(……前言撤回。息子で遊んでるんかこの人は)
531:名も無き被検体774号+:2013/02/11(月) 00:55:20.02 ID:A5sQz3U00
532:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 01:00:01.60 ID:ksxOkYT20
騎士「ええ、勿論」キッパリ
騎士「…早くに母親を亡くしてるんでね、体当たりの子育てですが」
騎士「愛情はたっぷりですよ」
母「ステキですね」ニコ
騎士「……ああ、あまりにもお茶が旨くて、ついいらん話を。失礼しました」
騎士「……世が世なら。勇者様にとって、良い友達になりそうな奴なんですがね」
騎士「勇者様、最後に一言だけ。どうぞ、この世界を………お救い下さい」
騎士「そして……光に導かれし運命の子……その、小さな肩に、世界の命運を背負わせていまう」
騎士「身勝手な私達をお許し下さい」
勇者(……もう一回撤回。やっぱ……素敵な親父だ)
勇者「顔を上げて下さい……俺…は、勇者ですから」
勇者「……必ず、世界を救います」
勇者「大丈夫、ですから」
騎士「……ありがとうございます。我らに出来ることがありましたら、なんなりと」
騎士「では………長くお邪魔致しました。王様との謁見の日取りは、またご連絡いたします」
……
………
…………
533:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 01:07:39.39 ID:ksxOkYT20
母「ん?」
勇者「親父って……どんな人だった?」
母「そうねぇ……」
母「素敵な人だったよ。勇者は……覚えてないだろうけど」
勇者「うん……」
母「まっすぐで、一生懸命でね」
母「ちょっと……抜けてる所もあったけど」
母「私の事も、勇者の事も、すごく愛してくれてたよ」
勇者「そっか……やっぱり、今日の騎士さんみたいに」
勇者「……いや、いいや」
母「そうね……あんな感じかなぁ」
母「多分、勇者がパフェが食べたいって言ったら」
母「100個ぐらい、用意してくれるような人」フフ
勇者「……それは、嫌がらせ?」オイオイ
母「ん?勿論、喜んでもらいたくて、だよ」
母「それで、周りの人とかに、殴って止められるの」
母「俺は勇者の為に! …って、泣きながら渋々一個だけにするかな」
勇者「……立派な父親像が音立てて崩れた」
母「……ふふ」
勇者「あ。ごめん……」
母「何で?」
勇者「なんか……ごめん」
母「大丈夫よ。大丈夫……思い出しただけ」
母「さあ、寝ましょうか。今日も……疲れたでしょう」
勇者「うん、おやすみ、母さん……」
母「おやすみなさい、勇者」
……
………
…………
534:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 01:18:11.49 ID:ksxOkYT20
コンコン
勇者「はい、開いてます」
騎士「……不用心ですよ、勇者様」
勇者「信用、してますから」
騎士「……全く。では、参りましょうか……では、勇者様、こちらのマントを」
勇者「あ……はい」
騎士「目まで隠れるように……貴方のその金の瞳は目立ちますから……良し。良いですね」
騎士「では、母君様。夕刻までにはお送り致しますので」
母「ええ、お願い致します」
勇者「行ってきます、母さん」
騎士「王も忙しい身ですから……旅立ちに際しての注意点や、こちらからの援助のご説明が主になると思いますが」
勇者「はい」
騎士「聞きたいこと等があれば、事前にまとめておかれる方がよろしいですね」
騎士「道すがら、私に聞いて下さっても良いですよ」
勇者「あ、ありがとうございます」
騎士「後、お帰りの際に……世界地図を差し上げますね」
騎士「時間が許せば、色々な街にお立ち寄りになられると良い」
騎士「……良い娘がいる酒場なんかの詳細も一緒にお渡ししましょうか」クスクス
勇者「は!? …け、結構です!」
騎士「ふふ……では、参りましょう」
母「気をつけてね、勇者…… 騎士様、どうぞ宜しくお願いします」
パタン
母「とうとう……後一ヶ月、か」
母「勇者、私を怨むかな? …貴方を……魔王を、怨むかな」
母「どんな決断をするんだろう」
母「どんな人を……仲間に、するんだろう」
母「勇者………これだけは、忘れないでね」
母「私も、魔王も……心から、貴方の事を愛しているんだよ」
母「この腐った世の中の、腐った不条理……」
母「貴方は……断ち切れるかしら。勇者……」
535:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 01:24:46.81 ID:ksxOkYT20
命は喜び、悲しみ、寂しさを覚えた。
例えヒトとマが違えたとしても、同じであることを願った。
世界は悠久だった。
空は青く、果てしなかった。
命は消え、星になった。
星は、光だった。
光は、闇に包まれ、太陽が昇り、月が昇る。
そうしてまた、何時しか命が産まれた。
過去は現在になった。
現在は未来になった。
命は、願いだった。
願いは、どこにでもあった。
神が住まいし限りなく遠く、果てしなく近い最果ての地。
そこにも、願いはあった。
朝と夜は繰り返され、永劫の時を生き続ける。
終わりは、始まりだった。
536:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/11(月) 01:25:43.29 ID:ksxOkYT20
543:名も無き被検体774号+:2013/02/11(月) 11:22:14.51 ID:ir6AJxKSP
560: 忍法帖【Lv=8,xxxP】(1+0:8) :2013/02/11(月) 18:22:02.30 ID:CC2XHtaw0
569:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 09:45:35.36 ID:vL6OmEyp0
んじゃ番外編だなー
573:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 10:11:06.53 ID:vL6OmEyp0
事務員(本物)「勇者様のお誕生日も近いし……忙しくなるわねぇ」
魔導将軍「精が出るわね、お嬢さん?」
事務員(本物)「……? ごめんなさい、今日の登録は終わってしまったんです」
事務員(本物)「また明日来て貰えます?」
魔導将軍「大丈夫、それには及ばないわ」
事務員(本物)「え?」
魔導将軍「忙しいでしょう? ……手伝ってあげる」
事務員(本物)「え……きゃッ…」クラクラ
魔導将軍「暫く、お眠りなさい……と、危ない危ない」ダキ
魔導将軍「旅立ちの日まで二週間……さて」
魔導将軍「久しぶりねぇ、人間ごっこ」
576:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 10:27:43.55 ID:vL6OmEyp0
魔導将軍「あらん、セクシーな下着……よいしょっと、ちょっと胸がきついなぁ」
魔導将軍「ん、おっけー……御免ねぇ、事務員ちゃん。二週間のロングバケーション、楽しんでね」
魔導将軍「……夢の中、だけど」フフ
……
………
…………
魔導将軍「……はい、次の人ー」
魔導将軍(久しぶりに人間の仕事なんかすると疲れるなぁ)
魔導将軍(ああ、側近にマッサージしてほしい)
魔導将軍(あれから10日ほど……)
魔導将軍(最初はぱらぱらだったけど…)
魔導将軍(王様のお触れが出てから、来るわ来るわ……ハァ)
魔導将軍(この中から三人ほど、か……)
僧侶「あの、すみません……登録って、ここで良いんでしょうか…?」
魔導将軍「はい、こんにちは……どうぞ?」ニコ
魔導将軍(また一人……あら、この子……?)
577:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 10:38:54.49 ID:vL6OmEyp0
魔導将軍「じゃあ、この書類に記入して貰えるかしら?」
僧侶「はい……ペン、お借りします」
魔導将軍(僧侶、レベル1……ふむ)
僧侶「これで……よろしいですか」
魔導将軍「ええ、結構ですわ……では、登録させていただきます。勇者様に選ばれるとよろしいですわね?」ハイ、アクシュ
僧侶「あ……はい!」アクシュー
魔導将軍(水……優れた加護を受けてるわね……それに……)
魔導将軍(この子……人じゃないわね……エルフ……否、回復魔法が使えるのか)
魔導将軍(珍しい……ハーフエルフ? ……へぇ)
僧侶「勇者様は……」
魔導将軍「うん?」
僧侶「どんな方をお連れになるのでしょう……」
魔導将軍「…さぁ。でも、回復要因は重要だと思うけれど?」
僧侶「私は……世界の謎を知りたいんです」
578:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 10:48:55.30 ID:vL6OmEyp0
僧侶「はい……勇者様の目的が、魔王の討伐と言う事は存じておりますが」
僧侶「お供することで、少しでも……触れられるなら」
魔導将軍(なるほど……)
魔導将軍「一朝一夕でなされるものではありませんからね」
魔導将軍「……不可能ではないと思いますよ?」
僧侶「ええ、でも……不純な動機ですよね」
魔導将軍「厳しい言葉かもしれませんが」
魔導将軍「運命に選ばれるものですから……勇者様ご自身も、これからの…行く末も」
僧侶「………」
魔導将軍「貴女の手が必要であるならば」
魔導将軍「勇者様が……否、運命が」
魔導将軍「貴女を選ぶかも知れませんよ」
僧侶「そう……ですね」
魔導将軍(腐った世の中の、腐った不条理……もし。何かしらの介入を許す隙間があるのなら)
魔導将軍(……それすらも、必定であるとは思いたく無いわね)
579:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 10:58:25.33 ID:vL6OmEyp0
………
…………
魔導将軍「はい、では書類をお預かりします」
戦士「ああ」
魔導将軍(良い筋肉してるわねー……昔の側近みたい)オットイケナイ、ミトレチャッタ
戦士「勇者様の旅立ちは、正確には何時なんだ?」
魔導将軍「確か3日後とお聞きしていますよ」
戦士「そうか……もう相当数の登録があるんだろう?」
魔導将軍「そうですね……それはもう ……不安、ですか。選ばれるかどうか」
戦士「…そうで無いと言えば嘘になるが。所詮、実戦経験も無い。魔王を倒すのであれば」
戦士「……否。弱気ではいかんな」
魔導将軍(ふむ)
戦士「俺なんかが……と言う気持ちが無くは無いが。そういうのはにじみ出るものだろう」
戦士「で、あれば……せめて自信を持って、勇者様とご対面したい」
魔導将軍「立派な心がけだと、思いますよ……はい、オーケーです。これで、登録させていただきますね」アクシュー
戦士「……宜しく頼む」アクシュ
魔導将軍(緑の加護……やっぱり側近みたい)フフ
魔導将軍(優しい子、みたいね、ぶっきらぼうだけど)
魔導将軍(暖かい気配が流れ込んでくる……)
戦士「俺は、まだ……なんの為に強くなりたいのか、わからん」
魔導将軍「?」
戦士「だが……それが、勇者様の為であれば良いと思う。今は」
魔導将軍「何時か、いい人が見つかれば」
魔導将軍「勇者様とその人と……守るものが二つに増えるだけですわ」
魔導将軍「そうすれば……より、強くなれますよ?」
戦士「………」ムス
魔導将軍(照れた………のか?)
580:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:09:20.32 ID:vL6OmEyp0
………
…………
魔法使い「ここで良いのよね、登録って」
魔導将軍「はい、結構ですよ。では……この書類に記入を」
魔法使い「……結構詳しく書かされるのね」
魔導将軍「皆様、勇者様の御為に……といらっしゃいますから」
魔導将軍「あまり、身元や得体の知れない方は……申し訳ありませんが、こちらで跳ねさせて戴くのですよ」
魔導将軍(勇者様、がそんなことに負けるとは思わないけどね……)
魔導将軍(人間ってややこしい……私も元人間だけど)
魔導将軍(魔族になるって……こういうことなのかしらね)
魔法使い「ふぅん……まあ、良いわ。はい」
魔導将軍「お預かりします」
魔導将軍(ん? …この子……あの家の出なのか)
魔導将軍「はい、結構です。では……登録完了です」アクシュー
魔法使い「…怪しいところは無かった、って事ね」アクシュ
魔導将軍(……火の加護……だけど。ふむ……)
魔導将軍(あの家の人間は優れた加護を持つ人が多かった筈。でもこの子は……)
魔導将軍(苦労、したんでしょうね)
魔法使い「……何?じっと見て……」
魔導将軍「ああ、失礼しました……魔法を使役する方の登録は多いので」
魔導将軍「つい、数を数えてしまいましたわ」
魔法使い「……やっぱり、多いのね」
魔導将軍「剣を扱う方、武術を得意とする方、回復専門の方……同じ様に多いのですけれどね」
魔導将軍「魔法系は、さらに属性で分けられますから」
魔法使い「………」
魔導将軍(あ、しまった……地雷踏んじゃった?)
魔法使い「……珍しい属性の人は居た?」
魔導将軍「…個人情報は漏らせませんわ、ごめんなさいね」
魔法使い「あ、そうよね……ごめんなさい」
魔法使い「でも……」
魔導将軍「不安になる気持ちは様々、されど皆様同じですよ」
581:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:34:45.27 ID:vL6OmEyp0
魔導将軍「まあ、本当に自信の無い方は、登録すらされないでしょうけどね」
魔法使い「……ふふ、そうね……ありがとう、事務員さん」
魔導将軍「どういたしまして」
……
………
…………
勇者「では……貴方と、貴女と……貴女に。お願いできますか」
戦士「……ああ」
魔法使い「いい目、してますね勇者様」
僧侶「わ、わわわわ、私、ですか……!?」
勇者「はい。お名前を伺っても?」ニコ
魔導将軍(成る程……勇者様のお眼鏡に…否)
魔導将軍(運命に導かれたのは、あの三人、って事ね)
魔導将軍(光に導かれし運命の子……そしてこの世の行く末を担う運命に選ばれた子達)
魔導将軍(ここまでは、一緒。まだ……一緒)
魔導将軍(だけど………!)
勇者「では、お世話になりました」
魔導将軍「貴方達の行く道に光あらんことを」ニコ
魔導将軍(まだ小さな光……小さな背。でも……あの子達ならきっと)
魔導将軍(古の腐った縁を……腐ったこの世界の不条理を……)
魔導将軍(光で、照らしてくれる)
魔導将軍(そして……特異点)
魔導将軍(何かしらの介入を許す隙間………前代未聞)
魔導将軍(ここからは………変わるのかしら)
魔導将軍(否、変わる! ……腐った世界の、腐った不条理を断ち切る、特異点…!)
582:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:39:48.53 ID:vL6OmEyp0
魔導将軍(………でもこの、人間の服…側近に見せたいな)
魔導将軍(……うーん)
魔導将軍「…貰っちゃお」バサッビリッ
魔導将軍(あああ、背中破れた…ッ 翼が……ま、いっか)コレモセクシー
バッサバッサバッサバッサ
事務員「う……うん……」サムイッ
事務員「あ、あれ、私さっきまで仕事してた……は、ず……」
事務員「きゃあああああ、な、なんで裸なの!?」ギャー
……
………
…………
583:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:45:44.44 ID:vL6OmEyp0
側近「勇者が産まれると言う事は、魔王もまた、産まれると言う事」
魔導将軍「希望と絶望」
后「光と闇」
側近「表裏一体」
魔導将軍「腐った世界の腐った不条理」
后「運命の子は、まだ限りなく遠くて、果てしなく近いよ」
魔導将軍「今はまだ……ね」
側近「……だとさ、魔王……否、元勇者様」
魔王「………」
后「もう、喋れないんだね」
側近「ああ、立ち上がれないしな」
魔導将軍「笑わないしね」
后「……繰り返されるのかな」
側近「特異点」
魔導将軍「前代未聞」
后「それすらも必定?」
側近「それでも……俺たちは、喜ばないといけない」
魔導将軍「腐った世界の、腐った不条理を……今度こそ」
后「断ち切れる?」
側近「まだ、わからん」
魔導将軍「でも、何らかの介入を許した。恐らく、あのハーフエルフの娘」
后「すぐにでは無いかも……」
側近「だが、確実に変わる。変わっていく」
魔導将軍「そう……私達の時とは違う」
后「これから先は………貴方達の物語」
584:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:48:10.45 ID:vL6OmEyp0
古の神との忘れられた契約。
限りなく遠く、果てしなく近い最果ての地。
神は光と闇を生み出し、大地を作り水を育み炎を抱き過ごした。
一つ、命が産まれた。
それは紛れも無い命だった。
それは感じ、見、知る事ができた。
神はそれに、ヒトと言う名を与えた。
一つ、命が産まれた。
それもまた、紛れも無い命だった。
それは生み出し、使役する事ができた。
神はそれに、マと言う名を与えた。
ヒトとマは交わり、様々な命を産みだした。
神はその都度、相応しい名を与えた。
585:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:48:43.97 ID:vL6OmEyp0
ヒトとマの境界は薄れ、何時しか光と闇は混じり合った。
命は国を作った。
太陽が昇り、月が沈む。
命は命を作った。
月が昇り、太陽が沈む。
命は、命だった。
光と闇だった。
命は、光と闇の獣だった。
光は星でもあった。
静かに、音も無くただ、大地を照らし続けた。
闇は夜でもあった。
静かに、音も無くただ、大地を包み込んだ。
獣は、獣だった。
雨に濡れ、太陽に灼かれても。
命として、そこにあった。
586:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:49:22.07 ID:vL6OmEyp0
ヒトは、雨を凌ぎ、太陽を凌ぐ術と知を身につけた。
ヒトは、弱かった。
命は、儚かった。
ヒトは、強かった。
命は、輝いていた。
儚い輝きは、未来へと続いていた。
未来は、過去だった。
過去は、現実だった。
寝て見る夢、現実に見る夢。
共に、希望を抱き、絶望に抱かれる。
共に必ず、願いがある。
587:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:50:03.95 ID:vL6OmEyp0
命は喜び、悲しみ、寂しさを覚えた。
例えヒトとマが違えたとしても、同じであることを願った。
世界は悠久だった。
空は青く、果てしなかった。
命は消え、星になった。
星は、光だった。
光は、闇に包まれ、太陽が昇り、月が昇る。
そうしてまた、何時しか命が産まれた。
過去は現在になった。
現在は未来になった。
命は、願いだった。
願いは、どこにでもあった。
神が住まいし限りなく遠く、果てしなく近い最果ての地。
そこにも、願いはあった。
朝と夜は繰り返され、永劫の時を生き続ける。
終わりは、始まりだった。
588:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:56:50.33 ID:vL6OmEyp0
后「名も無き古の詩。魔王が……まだ勇者だった時、教えてくれた」
側近「……皮肉だな」
魔導将軍「皮肉ね」
后「永遠、光と闇、太陽と月……」
側近「表裏一体」
魔導将軍「過去、未来、現在……」
側近「何時か……終わるのか?」
魔導将軍「何時か、終わらす、のよ」
后「そう。だから私達は、喜ばなくてはいけない」
魔導将軍「願うなら、私達が悠久の空の彼方に還った時」
側近「世界へ孵った時」
后「古は、古へ。未来は未来へ……新しい物語を、あの子達はきっと紡いでくれる」
后「そこから先は……新しい、誰もしらない誰かの物語」
589:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/12(火) 11:58:51.52 ID:vL6OmEyp0
600:名も無き被検体774号+:2013/02/12(火) 18:00:59.95 ID:kEkecdXL0
606:324:2013/02/12(火) 21:09:19.85 ID:eMaHO9r10
611:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 09:20:41.15 ID:p0HLtNKt0
ふぉ、勇者だー!
すげぇなぁ、やっぱ
さて、今日はあんまり時間がないのだーけど、ピンクな。了解w
流石に台詞だけで出来る気しないのと
あんまりがっつりエロくはならんと思うけど…
ピンクの栞って事でほんのりと
612:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 09:41:37.09 ID:p0HLtNKt0
僧侶は頬で、髪で。身体全体に、潮風を感じていた。
――船上。不思議と気分は悪くなかった。
白い肌に赤みは見られない。だが、以前の様に青ざめ、苦しそうな表情も見当たらなかった。
「そうね……船酔い、大丈夫?」
隣に立つ魔法使いの声が、低く唸る波の音に混じって、僧侶の耳に届く。
潮風に双眸を細める魔法使いのその一対の赤へと視線を投げ、僧侶は一つ、小さく頷いた。
「ええ、慣れたのと……船酔いに効くハーブを町長から戴きましたので」
「……ハーブ?」
はい、と小さな返事。腰に着けた小さな袋から薬草の束を取り出し、ひらひらと振ってみせる。
僧侶は魔法使いの腕をそっと掴み、その手のひらへと握らせる。
「薬草酒です。二日酔いにも効くそうですよ?はい、お裾分け」
煎じて飲めば言いそうですよ、と微かに悪戯めいた笑みと共に 付け足した。
「……誰かさんにあげたら良いじゃない」
魔法使いは、眉間に皺を刻む。常よりも小さく低い声に混じるのは微かの苛立ちか。
されど、彼女の中の感情がそれだけで無いのは頬に薄く滲む朱から想像に容易い。
「ですから、お願いしますね?」
僧侶は小首を傾いで念を押す。魔法使いは断らないだろう。
その僧侶の自信の裏付けは、押しつけた手に握られた侭の薬草の束。
強く握った侭、突き返そうとはしていない。
「……ッ なんで、私が!」
「あ、戦士さんとお約束してるので、失礼します」
僧侶は魔法使いのそれ以上の言葉を聞くのを拒否しますと言わんばかりに
にっこりと笑みを向けてから、くるりと背中を向け、船室の方へと歩み出す。
「ちょ、ちょっと……ッ」
恨みがましく、魔法使いの声がその背を追う――も、波の音に邪魔され、僧侶の耳には届かなかった。
613:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 09:56:37.07 ID:p0HLtNKt0
枕に頬を埋め、勇者はその場からぴくりとも動けずにいた。
二日酔い、の一言に尽きた。
たかが、されど。
こんなに辛いものなのかと、何度も何度もまだ酒気の残るため息を吐く度に思う。
嘔吐感を覚え、身を縮めては荒い呼吸を繰り返す。
昨夜、これでもかと言うほどに吐き戻し、もう出るものは何も無い。
僧侶の勧めで水分だけは取るようにしているが、今は寝具脇のチェストに置かれた
グラスへと手を伸ばすのも億劫だった。
どれほどの時間が経ったのか分からず、早く着けと願いを繰り返している内に
コンコン、と扉を叩く音が勇者の耳に届いた。
その誰かの声は続かない。ハイ、と返事をしたはずが、枯れた喉から音は出なかった。
続いて、やや乱暴に扉を叩く音。
そして間を置かず、やはり乱暴に扉を開く音。
「……情けないわね、全く!」
その勢いにびくりと身を震わせた刹那、聞き慣れた声が頭上へと振ってきた。
「ま、魔法使い……」
そろそろと痛む頭を持ち上げ、魔法使いの顔を見る。
――呆れた様な、怒った様な。複雑な顔の彼女を見、その手に持たれたグラスを見る。
「ほら、薬草酒。二日酔いに効くんですって」
寝具の上へと横たわる勇者へと、魔法使いは足早に寄り、ぐいとグラスを近づけた。
「……用意、してくれたのか」
勇者は、すん、と小さく鼻を鳴らして、その言葉だけを絞り出す。
随分と酷い匂いがする。ひくりと、勇者の頬が震えた。
「私じゃ無いわ、僧侶よ。船酔いにも効くんですって」
614:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 10:08:28.37 ID:p0HLtNKt0
さっさと飲め、と言いたげに。
勇者「そ、そうか……ありがとう……」
成る程、彼女の不機嫌そうな態度の原因の一つは、この匂いにあるらしい。
ほっとした様なそうでない様な。勇者はそろそろと起き上がり、グラスを受け取った。
鼻を近づけると、薬草の苦そうな香りと共に、微かに酒精の香が感じられる。
こみ上げてくる何かに耐える様に一度腹をさすり、一気に杯を煽った。
「……じゃあ、戻るわ」
ごくごくと嚥下する己の喉が上下する音に、魔法使いの小さな声が混じる。
その声をかき消す様に、待ってくれ、と止める間も無く、勇者はげほげほと激しく咳いた。
「……げほ、げほげほごほッ」
涙の浮かぶ金の双眸をきつく閉じ、苦みと酒から来る嘔吐感にどんどんと胸を叩く。
「ちょ、だいじょ……ッ」
「げほげほ…ッ ま、ほうつか……ッ」
魔法使いが、焦った様に覗き込んでくる。涙に潤んだ視界に、彼女の心配そうな美しい顔が朧に映った。
思わずぐいと彼女の腕を掴み引き寄せ、また、咳いた。
「な、なによ!?」
引っ張らないでと小さく続けた魔法使いの言葉に、続きは無かった。
遠い場所から波の音と、苦しげにヒューヒューと鳴る己の喉の音だけが勇者の耳に届いた。
「昨日は、悪かった」
数秒の、後。
勇者がそうして小さく紡いだ言葉の後は、静寂が支配する。
「……良いわよ、もう。そりゃ……悩みもする、わよね……良いわよ」
615:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 10:18:03.61 ID:p0HLtNKt0
腕に込める力を緩めた。しかし魔法使いは動かない。
「何……てか、離してよ」
言葉と裏腹、魔法使いの声に、嫌がる気配は感じられなかった。
「嫌だ」
「は!?」
勇者は、一つため息を吐く。まだ酒の香は残り、妙に薬草の味の残る口内を枕元の水ですすぎ、一つ深呼吸する。
「……昨日、お前の顔見て、話してると…落ち着いて……まあ、それで酔いも回ったんだけど」
「……はぁ」
ゆっくりと言葉を吐き出し、勇者は魔法使いの顔を見つめ、掴んだ侭の腕を引き寄せ、勇者はそっと魔法使いの華奢な身を抱きしめた。
「俺……」
「!?」
腕の中で、魔法使いの身体が小さく震えたのが分かった。勇者はさらに力を込めて、抱きしめる。
魔法使いからの、拒絶は無かった。
形の良い、小さな魔法使いの耳元へと唇を寄せ、ぽつぽつと言葉を告げる。
「魔王倒すから。魔導将軍の言葉に従うみたいで嫌だけど。倒して、倒しきって……勇者は、俺で最後にするから」
「………」
「そしたら」
魔法使いの細い腕が遠慮がちに動き、まるで小さな子をあやす様に、そろそろと勇者の背を撫でる。
「……そしたら?」
「俺、勇者じゃ無くなるけど」
「………」
「ただの、俺になる、けど」
「………」
――沈黙。勇者の言葉は続かない。
早鐘を打つのが、己のものなのか、魔法使いのものなのか。
最早判別は着かず、勇者は魔法使いの腕の動きに習うように、そろそろと魔法使いの赤茶の柔らかい髪を撫でた。
616:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 10:27:53.54 ID:p0HLtNKt0
勇者の指はそのまま魔法使いの前髪をかき分け、彼女の額へと唇を寄せた。
小さくちゅ、と音を立て、そこへと口付ける。
「!?」
――身を離し、見つめ合う。
頬が熱かった。魔法使いも同様だろう。彼女の頬は、刷毛で塗った様に赤い。
「……それでも、良い?」
勇者の声に、魔法使いはぱくぱくと唇を動かした。
あ、う、と。何かを紡ぎ出そうとしては叶わないのか、小さな音が漏れる。
「……だ、だって、あんた…今でも充分……」
真穂使いは漸くそれだけを告げ、俯いた。
そうして、覚悟を決めたかの様に、勢いよく顔を上げる――一気に、まくし立てる。
「……勇者らしくないわよ。いや、凄く立派な勇者だと思うわ!?だけど…飲み過ぎて吐いたり、二日酔いでぐったりしたり……でも、そんな……勇者らしくない、そう言うあんたも……」
勇者も、魔法使いも同時に、ごくり、と息を飲む――一瞬の間。
「……いえ、そんなアンタだから。ていうか、あああもう!あんたが、アンタだから、好きなのよ!」
言い放たれた刹那、魔法使いの赤い小さな唇が迫り来るのを、まるでゆっくりと勇者は見ていた。
時間にして一瞬。なのに何故か、勇者の視界には、柔らかそうな唇の動きが鮮明に写った。
「まほうつか……ッ 」
押しつけられた感触に、勇者の言葉は飲み込まれた。
小さく、軽く触れ合う音。そして徐々に体液が混じり合い、微かに隠微な音がそこへと混じる。
「ぁ、ン……ッ」
勇者は魔法使いの頭を抱え込むように己の身へと寄せ、彼女の呼吸を阻害する。
柔らかいその唇を食み、彼女の甘い吐息をも飲み込むように存分に味わった。
617:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/13(水) 10:36:52.82 ID:p0HLtNKt0
名残惜しそうに距離を置き、まだ腕に魔法使いを抱いた侭、微かに熱を帯びる吐息を彼女の耳朶へと届ける。
「な、によ……」
擽ったそうに小さく身を捩り、やはり甘い気配の残る魔法使いの声が続いた。
「明日、街に着くまで…」
勇者は、愛おしそうに、身をすり寄せた。応える様に、魔法使いは優しく勇者を抱きしめる。
「……」
「こうして、眠らせて……」
嘘の様に、気分が良かった。変わらず身は重いのに、不快では無い。
薬草酒のおかげなのか、魔法使いのおかげなのか。
勇者には分からない――何故だろうかと疑問が脳裏に浮かぶも、彼はそのまま、深い泥のような眠りへと誘われ、すぐに思考はぷつりと途絶えた。
「……え、ちょ……ッ」
抱きしめた腕に、ずしりと重みを感じ、魔法使いは己の身毎、寝具の上へと横たわる。
耳元で、気持ちよさそうな勇者の寝息を感じ、眉間に皺を寄せた侭、赤い双眸をぎゅうと閉じた。
「……ほんと、馬鹿ね……」
照れ臭い、恥ずかしい、呆れた、幸せ……嬉しい。
様々な感情を交え、思わず苦笑する。
まだ、こんなところで満足するわけにはいかないのだ。
勇者として、魔王を倒しに行く彼に付き従い、その手助けをする。
そして、平和をこの腕につかみ取る。
それまで、終わらない――だけど。
今は、つかの間の幸せを抱きしめて、ゆっくり眠りたかった。
631:名も無き被検体774号+:2013/02/13(水) 23:02:50.67 ID:7yPxDMwp0
633:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:05:48.94 ID:UZzhrsNL0
怖いなお前、と。
悪戯めいた戦士の声が続く。そんなことありませんと、僧侶が拗ねたように告げた。
――甲板。気の問題と薬のおかげか、潮風の冷気に晒された僧侶の頬から薄いながらも 赤みは失われて居なかった。
「人聞き悪いです、戦士さん」
拗ねた様な声は続く。戦士を下から睨む様に顔を上げ、微かに頬を膨らせた僧侶の顔を見下ろす
戦士の表情が愛おし気に緩む。
幼子をあやす様に、柔らかそうな蒼い髪を撫で、戦士はか細い僧侶の身をそっと抱き寄せた。
「その、薬草酒に何か混ぜたんだろ?」
「睡眠草をちょっとだけ。寝るに限りますよ、二日酔いは」
「……船酔いも寝るに限ると思うんだが。ふらふらしてるだろ」
どこかとろんと惚ける僧侶の蒼い双眸を見つめる侭、戦士は支えの手を離す。
途端、ふらりと細い身は揺らぎ、戦士の逞しい腕が再度力強く抱きしめる。
「え?そんな事は……あ」
僧侶は船酔いの所為以上にふらふらしている様に見える。
634:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:07:04.88 ID:UZzhrsNL0
船酔いに効果があるのであればそれだけで眠くなる成分が含まれているだろうに……とは、戦士の経験則。
「眠いだろ」
「くっついてるから、気持ち良いです……」
もたれて良いと抱いた身をさらに抱き寄せ、戦士は夢心地に似た僧侶の言葉にくすりと笑った。
ただでさえ揺れる船の上。戦士は僧侶を歩かせるに偲びないと、その身を軽々と抱き上げた。
「……眠いって言うんだ、それ」
「きゃッ」
驚きと照れからの、はにかむ様な、愛しい僧侶の声。
思わず戦士の唇は孤月を描き、胸の奥の方に微かな欲望の熱を感じ……誤魔化す様に僧侶の頭を己の胸へとそっと押しつけた。
勇者が飲むであろう薬草酒には、さらに僧侶の配慮で睡眠草入りであると言う。
果たして街へと帰還した後、勇者は起きられるのだろうか、と腕の中の蒼い髪へと唇を寄せ苦笑する。
「俺たちも部屋に戻るぞ。今のうちに……ゆっくり眠ろう」
「はい……そうですね」
戦士はゆっくりと、僧侶を抱き上げた侭彼女の船室へと向かった。
635:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:13:35.48 ID:UZzhrsNL0
僧侶は、心地揺れに、戦士に抱かれる心地よさに、夢の中に居るような錯覚を覚えていた。
つかの間の幸せ、とわかってはいた。
街へ着いてしまえば、否応なくまた、生と死をかけた戦いの中に身を置かなければならない。
戦士の腕はそっと僧侶を寝具の上へと下ろし、ゆっくりとその傍らへと腰掛けた。
優しく、優しく僧侶の髪を梳く、無骨な指。
僧侶はそこへとうっとりと視線を這わせ、ああそうだ……と呟いた。
「ん?」
「戦士さんに、お聞きしたい事があったんです……」
僧侶が発した声も、視線と違わずどこかうっとりと惚ける。
己の耳の中で、ふわふわと反響するように脳裏に広がった――笑みを浮かべた侭、僧侶は瞳を閉じた。
言葉を続ける。
「昨夜、魔法使いさんが言ってたんです……」
「……ろくな事じゃない気がするんだが」
戦士はうんざりとした色音を声に潜め、僧侶の言葉の続きを待つ。
636:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:20:00.72 ID:UZzhrsNL0
「?」
僧侶の言葉に、戦士は思わず眉根を寄せる。
意味が分からないと、緑の視線が僧侶に問う様に見つめる。
ゆっくりと僧侶は瞳を開き、頬を緩めた。
柔らかい笑みを浮かべながら、言葉を続ける。
「私の胸、触って……負けた、とか…えっと。何だっけ……それで、ああ、そうだ……それで、いい目見やがって、て」
何の事なんでしょうか……と落とされた笑みと僧侶の声にかぶせて、噎せ咳いた戦士の騒ぎが重なった。
戦士の頬は赤く赤く染まり、やはりろくな事じゃ無いと、深いため息を一つ。
「……そう言う事だ、と……言ってもお前には…否、今の僧侶にはわからんだろう」
「……?」
僧侶は、横たわる侭小首を傾ぐ。
ギシ、と音を立て、戦士が身じろいだ。
ゆっくりと僧侶の頬に唇を寄せるに動き、体重をかけない様そろりと、そのか細い身の上へと覆い被さる。
「………」
「………」
戦士の顔が、近い。
ゆっくりと近づいてくる唇を求める様、僧侶は頬を持ち上げた。
637:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:30:20.96 ID:UZzhrsNL0
潮風から解放され、定温に保たれた室内の空気と、戦士と離れずにいる事で暖められた
僧侶の頬は、先ほどから増して微かに赤く、色香とも言える雰囲気を醸し出す柔らかく笑む表情。
甲板で僧侶と触れ合う際に感じた、身体の奥の奥でく燻る欲望の炎を、今はしっかりと自覚する事ができる。
求めに応じる様に、戦士は僧侶の小さな唇に口付けた。
満足気な吐息を漏らすその唇に舌を這わせ、そのままやや強引に、僧侶の口内へとねじ込んだ。
驚きか悦か、びくりと小さなその身を震わせるも、僧侶はおずおずと戦士の背へと腕を回す。
638:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:39:05.41 ID:UZzhrsNL0
僧侶の耳元に、熱く荒い息がかかる。
「あ、の……大丈夫、です。わかります、よ?」
「……何が、だ」
僧侶は戦士の胸へとすり寄り、くすりと小さな笑みを漏らした。
ぎゅう、と抱きしめ、嬉しそうに気恥ずかしそうに、言葉を続ける。
「私には、隠せないです……戦士さん……あの、その……熱い、です。戦士さんの気持ち……」
「そ……そうか、そう、だな……」
「……私も、その」
「良い。言うな………辛く、ないんだな?」
一瞬の間。僧侶が、戦士の胸に顔を埋める侭、小さく頷いた。
「……辛ければすぐに言え。無理はしない……したくない」
「はい……でも」
「でも、は無しだ、僧侶……」
僧侶の耳朶へと、熱い舌を這わす。ああ、と思わず声を漏らし、僧侶は慌てて身を捩った。
「ち、違います、あの……ッ わ、私も、そう……し、たいん、で……ッ」
639:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:48:43.49 ID:UZzhrsNL0
戦士の、困惑した様な、照れた様な……切羽詰まった声が落ちる。
違うんです、と僧侶のやはり困った様な声。
恥ずかしいのだろうとの思いに行き当たり、戦士は耳元から僧侶の首筋へと唇を沿わせた。
その唇は悪戯気に弧を描き、白い項を食む。
先よりも大きく、僧侶が思うよりもはしたない声が、細い喉から漏れた。
戦士の大きな手はするすると僧侶の身の上を滑り、肩から胸へとたどり着く。
衣服の上からさらりと頂きを撫で、ああ、と声を漏らした。
「……ふ…ッ ン、なん……で、す……?」
「いや……いい目、な…」
くつくつと、戦士は喉を鳴らし笑う。確かに、と独りごち、柔らかい膨らみの先を摘む。
「あ、 ……ッ ゥ」
640:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 10:53:58.38 ID:UZzhrsNL0
抱き合い、口づけを交わし、ゆっくりゆっくりと戦士は、僧侶の身を快感に解していく。
いつの間にか我慢することを忘れた僧侶の喉からは、甘い声が漏れ続け、何時しか衣服まではぎ取られていた。
船酔いの薬の所為で夢見心地に蕩けていた僧侶の思考はさらに熱で蕩け、じりじりと這い寄る悦楽に不快では無い重みを感じていた。
しっとりと汗で濡れた身から戦士がゆっくりと身を離す。
「………?」
僧侶の疑問の浮かんだ蒼い双眸は、神具横で装具を手早く、されどぎこちなく脱ぎ捨てる戦士の身を捉える。
刹那、羞恥から僧侶は、素早く顔を背けた。
641:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:00:03.80 ID:UZzhrsNL0
僧侶は、戦士の声に顔を背けた侭、嫌です、と呟いた。
「ここまで、して………やめる、気です……か?」
戦士の答えは無い。やや乱暴に僧侶の身へと覆い被さり、激しく唇を塞ぐ。
ハァハァと、どちらの物ともつかない荒い息。
僧侶の白い太ももをぐいと開き、戦士はゆっくりと身を寄せた。
「……ッ」
「御免。ごめん……ッ 痛いな、痛い……な」
「良い、良い……ッだ、だい……ッじょうぶ、で、す……か、 ……ら、ァッ…」
ゆっくりと分け入られていく。
痛さと、感じた事の無い感覚に、僧侶は大きく背を反らせる。
悲鳴に似たか細い声。されどそこにはあるのは苦痛だけでは無かった。
愛しい者の暖かさを感じる事。
それがこれほどまでに満たされる事なのかと、僧侶の瞳には歓喜の涙が浮かぶ。
喉が苦しい。胸が痛い。
甘く切ない、愛の痛み。
642:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:05:03.49 ID:UZzhrsNL0
羞恥は忘れ、喜びだけに支配された内側は焦がされるかに熱い。
徐々に高まるに連れ、少しずつ大胆に、早くなる。
微かな痛みを感じては居たが、己の中で達するであろう戦士のその高ぶりが
僧侶には嬉しかった。
一つ、小さな小さな咆哮を僧侶の耳元で落とし、戦士はぐったりと僧侶の上へと身を預ける。
曰く、果てたのだろうと……想像が付く。
暫しの間、その侭抱き合っていた。
ゆっくりと戦士が身を離し、その侭ごろんと僧侶の横へと横たわる。
「……僧侶」
「はい……大丈夫です。あの……ありがとう」
「ありがとう?」
「はい……私の身を案じて下さって……」
「……何言ってるんだ、お前は」
クスクスと、笑いあった。小さくちゅ、と音を立て、何度も何度も唇を寄せる。
643:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:08:28.90 ID:UZzhrsNL0
何時しか、眠ってしまうまで。
装具を身につけ、殺伐とした大地に、再び足を着ける迄。
644:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:12:59.51 ID:UZzhrsNL0
僧侶「あ、魔法使いさん、見て下さいあれ」
魔法使い「んー?」
僧侶「ほら、『勇者の印チョコ』ですって」
魔法使い「チョコぉ?」
僧侶「今日、バレンタインですよ」
魔法使い「ああ……そうか、そんな日あったわねぇ、って」
魔法使い「あのねぇ、貴女が新しい杖が欲しいとか言うから、勇者様と戦士を宿に残して」
魔法使い「こうして街に出てきたんでしょうが!」
僧侶「だ、だってぇ……」オコラナイデクダサイヨゥ
魔法使い「余計な物見てるんじゃないわよ全く……」オコッテナイケドサァ
僧侶「でも、ほら。良く出来てると思いません?これ」
魔法使い「……こっちにもあるわよ、『勇者の印クッキー』」
僧侶「あ、おいしそう……」
魔法使い「貴女、お腹すいてるだけでしょ……」
僧侶「ち、違います!もう、魔法使いさん、私の事なんだと思ってるんですか!」
魔法使い「食いしん坊」
僧侶「……うぅ」ヒテイデキナイ
645:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:18:35.84 ID:UZzhrsNL0
僧侶「そう、ですね……ですけど」
僧侶「ね、これ買って帰りません?」
魔法使い「はぁ?」
僧侶「良いじゃないですか、こんな時ですけど……チョコ買って、あげるぐらいの便乗したって」
僧侶「罰、あたりませんよ」
魔法使い「……自分が食べたいだけじゃないの」
僧侶「ち、違いますってば!ちゃんと戦士さんにあげます!」
魔法使い「で、一緒に食べるでしょ」
僧侶「………そ、そんな事」ナイデスタブン
魔法使い「……まあ、良いか。じゃあ……チョコにしようかな。ワインにもあうし」
僧侶「魔法使いさんも食べる気満々じゃないですか……」
魔法使い「……勇者様にも買って行くわよ」
僧侶「あ、やっぱりあげるんですね」クスクス
魔法使い「! …す、すいません、これ一つください」
僧侶「ふふ……一つで良いんですか? あ、私このクッキー一つで」
魔法使い「良いの! …貴女こそ足りるの?一個で」
僧侶「良いんですー半分こするんですー」
魔法使い「ああ、はいはいはい。ラブラブで良いですね!」
僧侶「魔法使いさんだって。 ……はい、お金。ありがとうございます」
646:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:24:26.05 ID:UZzhrsNL0
僧侶「はーい! うふふ、戦士さん、喜ぶかなぁ」
……
………
…………
僧侶「戦士さん!お土産です!ハイ」
戦士「ん? ……これは?クッキー?」
魔法使い「ほら、アンタにもあるわよ」
勇者「え?俺……あ、クッキーだ……何これ、勇者の印チョコ……に、クッキー…」
勇者「……商人ってのは…どこの世界も逞しいな」
僧侶「ハッピーバレンタイン、です」
魔法使い「……だ、そうよ」
戦士「ああ、今日は……バレンタインデーか」ニコニコ
勇者「甘い物好きだもんなぁ、戦士は……」
戦士「僧侶がくれたものなら何でも嬉しいさ。ありがとうな、僧侶」
僧侶「はい!後で一緒に食べましょうね」
魔法使い「……見てる方が恥ずかしくなるわ」
勇者「別に良いんじゃない?魔法使いも……ありがとな」
魔法使い「……うん。まぁ……ハッピーバレンタイン」
647:1 ◆6IywhsJ167pP :2013/02/14(木) 11:27:00.72 ID:UZzhrsNL0
慣れないもん書くと気持ち悪い!
って訳で、はっぴーばれんたいーん。
ピンクもこれで終了!
あんまえろくできませんでした。すまん。
次こそ
魔王「ああ……世界は美しい」 に、続きます!
近い内にスレ立てますー
649:名も無き被検体774号+:2013/02/14(木) 11:37:38.26 ID:FZYe1QxeO
↓
ニヤニヤする
↓
現実に戻る
↓
…鬱だs(ry
となりまひた(´・ω・`)
次も楽しみにしています!
650:324:2013/02/14(木) 11:39:36.11 ID:iQTK8RVC0
次スレ楽しみにしてるから!1と勇者一行とみんなに盛大な感謝を!!
ありがとうございましたご馳走様でした!
701:名も無き被検体774号+:2013/02/26(火) 12:08:56.42 ID:byjyLkydO
引用元:勇者「拒否権はないんだな」