引用元:□□□□チラシの裏 26枚目□□□□

265名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:30:45 ID:

今日、帰宅するなり号泣する嫁に
「わるいどごあっだらなおずがらぁ!」と、
離婚しないでと懇願された。

かねてより、二人で決めた浮気のラインを超えた場合は、
問答無用で離婚と取り決めていたので、
足の力が抜けて、目の前が歪み、立っていられなくなった。

這うようにリビングに行き、ソファに座って呼吸を整えて、
振り絞るように一言だけ嫁に聞いた。
「いつ?」

ひっぐひっぐと泣き続ける嫁は、俺の問いに「?」という顔をし、
俺の顔を恐る恐る観察した嫁に、もう一度聞いた。
「一体いつ?」

いつもと違う声のトーンに、雷鳴に怯える子供のようにビクリと震わせ、
許しを乞うような目で答えた。
「さっき……です……」

こいつは、主人が帰ってくる寸前まで、不貞に励んでいたのかと、
胃が押し上げられるような感覚に、視界がぐらついて、目を閉じた。
これを聞いたら最早衝動は抑えられないだろうが、
聞かずにいられない最後の問いを嫁に投げつけた。
「相手は?」




266名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:39:18 ID:

どんなオチだろ








267名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:41:37 ID:

「相手……相手?」

嫁の場違いな声に苛立は瞬時にピークを迎え、抑えられられなかった。
「誰とヤッたんだよ!言えや!どこのどいつだ!」
嫁はその小柄な体を萎縮して、俺の怒鳴り声をやり過ごそうとしていた。

その姿を見て、一瞬にして気が萎えた。答えるつもりがないのかと。
諦観に似た感情で、二の句が接げられなかった。

呆然としながらリビングを見回した。
ここで色んなことがあったなぁと。
手を繋ぎながら、映画のDVDを見たなぁと。
悪いことをした子供達を並べて、泣きながら説教したなぁと。
正月には、買い揃えた海鮮お節が美味しいねと、ごろごろダラダラしたなぁと。

そんな日も、いきなり終ってしまうんだなぁと。
気付くと、俺の頬はびしょびしょに濡れていた。
止めどなく流れる涙を拭う気力も残っていなかった。




268名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:50:20 ID:

わっふるわっふる




269名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:51:12 ID:

嫁の手が頬に触れた。振り払うことも出来なかった。

「なんで泣いてるの?そんなにイヤだった?」

嫌も何も、もう全部終わりじゃないか。
声を出そうとしても、喉には何かが詰まっているようで、
少しの空気が漏れるだけで、まるで陸に揚げられた魚だなと自嘲した。

「でもね、どうして私と離婚したいの?それだけ教えて。」

虚空に溶け出ていた俺の意識が、体の中に吸い戻った。
フリーズしていた頭をむりやり再起動させ、言葉の意味を探った。

「ごめんね。部屋のMac見ちゃった。離婚のこと、いろいろ調べてるよね」

……なんだそれ。身に覚えが無い。
俺は離婚したいなんて一度も思ったことが無い。
嫁の優しい声が続く。

「私のこと嫌いになった?それとも誰かいい人がいるの?」

何を言ってるんだ。お前が終生唯一の女性だと誓ったろう。
平衡感覚を奪われた世界で、辛うじて意識を保った。
そのまま、気付くと嫁の腕の中で眠っていた。




270名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 22:59:24 ID:

2時間後。喉の乾きと頭痛と、子供達の騒ぐ声で眠りから覚めた。
窓の外はすっかりと秋の夜で、換気用に少しだけ開けられた窓からは、
澄んだ夜の冷気が仄かに流れ込んでいた。

上体を起こし、時計を見る。夕餉の時間。
ダイニングから薫る匂いが鼻腔をくすぐる。
不意に腹が鳴った。リビングの電気が付いた。
嫁がいた。いつもの様に、いつもの笑顔で。
「ご飯ですよ」

心に沁み入る声に、ふらふらっと立ち上がり、嫁に手を伸ばした。
嫁の体に触れた途端、夕方の出来事を思い出した。
「そう言えば」

嫁は俺を見て、「あとでね」と言った。
俺は嫁の奥深さを垣間みた気がして、それに付き従った。

いつもの食卓。子供達は騒ぎながら夕食を平らげ、
嫁は「片付けなさい!」と声を張り、子供達を動かす。
そこにはいつもと変わらない日常が流れていた。




273名無しさん@お腹いっぱい。2009/09/15(火) 23:12:23 ID:

シャワーを浴び、嫁の待つリビングへと向かった。
嫁はソファに座らず、床に正座して待っていた。
俺も座卓を挟み対面に正座した。目の前に置かれた冷茶を一口飲んだ。
「夕方の事だけど」

意外にも嫁が切り出した。嫁の言葉を全て聞こうと、俺は待った。
「いろいろ混乱させてごめんなさい」

深々と頭を下げる嫁に、夕方最後のやりとりを思い出した。

(私のこと嫌いになった?それとも誰かいい人がいるの?)

ようやく理解出来た。嫁が頭を上げた。目が合い、俺の言葉を待っていた。
「その、なんというか……いろいろ誤解があったみたいで」

俺の歯切れの悪い物言いに、嫁は決然とした顔で俺に聞いてきた。
「私と離婚したいんですか?」
「そうじゃない。そうじゃなくて」

俺の言葉尻を掴まえて、嫁が恐る恐る聞いてくる。
「いろいろ調べているみたいですけど……」
「あれは、気分転換の……あの2chでね、見た掲示板で話題になってて」

嫁の表情が俄に明るくなる。
「それじゃあ」
「うん、離婚はしないよ。したくない」

喜び綻んだ顔が一瞬にして曇る。
「でも夕方、久しぶりに怒鳴られたけど……」
「あれはね、お前が浮気してるかと早合点して……ごめん」

俺はその1時間掛け丁重に詫び、嫁は拗ねたりいじけたりするフリをして、
俺の情けない姿を楽しんでいたようだった。

これが一年前くらいの話。秋の夜長にふと思い出した。




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